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中条志穂「イチ推しフランス映画」

映画『ベティ』


©MK2

監督:クロード・シャブロル Claude Chabrol
ベティ:マリー・トランティニャン Marie Trintignant
ロール:ステファーヌ・オードラン Stéphane Audran
ギィ:イヴ・ランブレヒト Yves Lambrecht

2026年8月28日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国順次公開

配給:コピアポア・フィルム

[公式HP] https://claudechabrol2026.jp/

 クロード・シャブロル監督の日本初公開作。ジョルジュ・シムノンのミステリー小説が原作で、奔放な女性ベティの過去を点描しながら、周囲を巻き込んで平然と生きる彼女の恐るべき本性を皮肉たっぷりに描いている。

 パリのバーで酔いつぶれたベティは、親切な中年女性ロールに助けられ、彼女の滞在するホテルで看病を受ける。ロールは夫を亡くした後、心の隙間を埋めてくれる愛人はいたものの、深い孤独にさいなまれていた。一方のベティは、裕福なブルジョワの家に嫁いだが、保守的な夫の家族に囲まれた窮屈な生活に耐えられず、酒と男に溺れたあげく、不倫が見つかり、子供の親権を奪われて家を追い出された身だった。孤独を抱えた者同士、ロールはベティになにくれとなく世話を焼く。だが、他人の善意を何とも思わない生き方をしてきたベティは、恩人であるロールをも裏切るのだった……。

 ジャン゠ルイ・トランティニャンの娘、マリー・トランティニャンが退廃的なヒロインに扮し、シャブロル作品の常連女優、ステファーヌ・オードランが上流階級の中年女性ロールを演じた。ブルジョワ社会の偽善や欺瞞を冷徹に抉りだしたシャブロル監督らしい作品である。本作は「クロード・シャブロル傑作選 vol.2」で上映される。

【シネマひとりごと】

 本作『ベティ』(1992)を含め、『ヴィオレット・ノジエール』(1978、日本初公開)と30年ぶりの再映となる『沈黙の女』(1995)の3作品は、ブルジョワに対して理不尽ともいえる仕打ちをする衝撃作ぞろいである。体裁ばかり気にして上品ぶったブルジョワ家庭の嫌らしさを浮き彫りにしながら、搾取する側のブルジョワ一家が傍若無人な女たちに命をむしり取られるさまを、シャブロルならではのアイロニー満載の意地悪な視点で描いている。登場するヒロインたちはみな、社会から見下され、排除された可哀想な存在に見えるのだが、彼女たちは階級社会を前に卑屈になったり物怖じすることが全くない。その腹の据わった図々しさは堂々たるものだ。とりわけ『ヴィオレット~』と『沈黙の女』の両作品で主演をつとめるイザベル・ユペールは、かたや無表情のまま、かたや飛び跳ねて笑いながら人を殺める狂った演技で度肝を抜く。この2作品でユペールはそれぞれカンヌ映画祭女優賞、ヴェネツィア映画祭女優賞を受賞した。本作『ベティ』のヒロインはその2作に比べるとややおとなしめで、公開当時、「いつものシャブロル特有の毒気が控えめで物足りない」と不評もあった。それでもシャブロルがラストにわざわざつけたナレーションでは、道徳観の通じない、本能で生きる人間の勝利が淡々と語られ、それが空恐ろしい余韻となって効いてくる。シャブロルの描く、人間の予測不可能な残酷さには戦慄を禁じ得ない。鼻につくブルジョワ家庭を叩きのめす怖い怖い3作品、この貴重な機会にぜひご堪能いただきたい。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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