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中条志穂「イチ推しフランス映画」

セドリック・クラピッシュ監督による感動作『ダンサー イン Paris』

映画『ダンサー イン Paris』


© 2022 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA
Photo : EMMANUELLE JACOBSON-ROQUES

監督:セドリック・クラピッシュ Cédric Klapisch
振付・音楽:ホフェッシュ・シェクター Hofesh Shechter
エリーズ:マリオン・バルボー Marion Barbeau
アンリ:ドゥニ・ポダリデス Denis Podalydès

2023年9月15日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開

配給:アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル

[公式HP] www.dancerinparis.com

 パリを舞台に若者たちの恋愛模様を描き続けるセドリック・クラピッシュ監督が、脚を負傷したバレエダンサーの挫折と再起を躍動感あふれる映像で綴った感動作。

 パリ・オペラ座バレエ団のダンサー、エリーズは花形(エトワール)をめざして舞台に立つ日々を送っていた。だがある日、恋人の裏切りを目撃した直後の舞台で、心が乱れて転倒し足を剥離骨折してしまう。エリーズは医師から踊れなくなる可能性を告げられたうえ、オペラ座の所属も外され、恋も仕事も一晩で失った。そんなとき、バレエをやめた友人サブリナから、ブルターニュの宿泊施設での料理補助のアルバイトに誘われる。そこは、芸術を愛するオーナーのジョジアーヌがアーティストのために練習場を提供しており、ちょうどコンテンポラリーダンスの有名な振付師がチームを引き連れてやってきていた。彼らが踊る姿を見て、エリーズは踊れない自分と比べて複雑な思いにかられるが……。主演は実際のオペラ座バレエ団のダンサーであるマリオン・バルボー。コンテンポラリー界の奇才と呼ばれる振付師のホフェッシュ・シェクターも本人役で出演している。セリフなしで展開する冒頭15分のバレエの舞台の映像が圧巻の迫力で、クラピッシュ監督のダンスに対する愛と情熱を感じさせる。原題はEn corps(一団となって)。

【シネマひとりごと】

 セドリック・クラピッシュ監督の人気作『ロシアン・ドールズ』は、ある登場人物の恋人がロシア人のバレリーナという設定で、クラピッシュは短い舞台場面のためにわざわざロシアバレエの殿堂、マリインスキー劇場まで出向いて撮影した。彼は筋金入りのバレエファンで、オペラ座のエトワール・ダンサー、オーレリー・デュポンのドキュメンタリーも2本撮っている。その作品中で、デュポンは引退後の生き方が問題だと語っていた。『ダンサー イン Paris』で主人公の父親が、ダンサーとしての寿命は短く、その後の人生をやり直さなくちゃならないと心配している通りだ。デュポンは引退後、オペラ座の芸術監督に就任、バレエダンサーとして最も輝かしい栄光を手にした。前任者はバンジャマン・ミルピエ。天才振付師と呼ばれ、女優ナタリー・ポートマンの夫としても有名である。ダーレン・アロノフスキー監督『ブラック・スワン』でポートマンがバレリーナを演じる際に振付を担当した縁からだ。だが『ブラック・スワン』のポートマンの踊りは吹き替えによるものが多く、演じる人はダンサーでなければならないと考えるクラピッシュは、夢中になれない映画と手厳しい。ミルピエはドキュメンタリー映画『ミルピエ~パリ・オペラ座に挑んだ男』(本作のヒロイン、バルボーも出演)にもあるように、それまで白人のみだったオペラ座の専属ダンサーに、混血のダンサーを初めて起用するなど、旧態然としたオペラ座を大きく改革しようとしていたが、わずか2年弱で辞任した。そのあとをついだのがデュポンだ。だがその後、ダンサー間のセクハラやいじめなどが暴露されて大きな問題になり、デュポンの統率力も疑問視されてしまった。こういうことは山岸凉子先生のバレエ漫画の中だけのお話かと思っていたが、意外にも現実であることに驚く。美しく華やかな世界だが引退後の生活は簡単ではないようだ。本作の女優デビューで、バレエ界と芸能界という2つの過酷な世界で生きることになったマリオン・バルボーも潰れることなく頑張ってもらいたい。

『ふらんす』2023年9月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

◇初出=『ふらんす』2023年9月号

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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