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中条志穂「イチ推しフランス映画」

思春期の高校生の繊細な感性を掬い取った物語『スザンヌ、16歳』

映画『スザンヌ、16歳』

監督・脚本:スザンヌ・ランドン Suzanne Lindon
スザンヌ:スザンヌ・ランドン Suzanne Lindon
ラファエル:アルノー・ヴァロワ Arnaud Valois
スザンヌの父:フレデリック・ピエロ Frédéric Pierrot

2021年8月21日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

配給:太秦

[公式HP]suzanne16.com

 20歳の新鋭スザンヌ・ランドンが監督・脚本・主演をこなした作品。昨年のカンヌ映画祭オフィシャルセレクションに選ばれ、若い才能の出現が大きな話題を呼んだ。

 パリの高校に通う16歳のスザンヌは同級生の友人たちと一緒にいても居心地の悪さを感じている。家族の仲は悪いわけではないが、毎日同じような生活に退屈していた。そんなある日、登校途中に、劇場の前で舞台俳優ラファエルと出会う。ラファエルはスザンヌよりも20歳ほど年上で、スザンヌは同級生の男の子たちにはない魅力を感じる。一方、ラファエルも俳優として行き詰まりを感じ、新しいものを求めていた。二人はすぐに歳の差を超えて惹かれ合うようになる。だが、まだ若いスザンヌは、恋愛への憧れと不安の入り混じった、感情の迷路へと入り込んでしまう……。有名俳優ヴァンサン・ランドンとサンドリーヌ・キベルランの娘でもあるスザンヌ・ランドンが、わずか15歳のときに書いた脚本をもとに映画化した。ダンスや現代演劇の表現法を取り入れながら、思春期の高校生の繊細な感性を掬い取った物語である。

 原題はSeize Printemps(16歳、春)。

【シネマひとりごと】

 主演のスザンヌ・ランドンが画面に登場した瞬間、女優シャルロット・ゲンズブールかと見間違えた。よく見るとそれほど似てないのだが、クロード・ミレール監督『なまいきシャルロット』に出ていたゲンズブールの雰囲気にとてもよく似ている。ただ、その年代の少女が放つ一瞬の輝きを画面に残したいとの欲望が見え隠れする『なまいき~』と、本作のスザンヌの描き方は全く異なっている。ミレールのほかにも、ロジェ・バディム、ロマン・ポランスキー、ジャン=クロード・ブリソー、セルジュ・ゲンズブール等々、ロリコン趣味の巨匠は数多いが、彼らは少女の危ういセクシュアルな魅力を画面に残すことに腐心する。だが本作は、恋愛に憧れたり、大人っぽく背伸びをする一方で、両親に甘える一面もあるような、ごく普通の女の子の心情にちゃんと寄り添っている。街路で突然踊りだしたり、オペラの曲に合わせて登場人物たちの動きを現代舞踏風にシンクロさせたダンスなど、主人公の内面を表すやや飛躍しすぎた演出も目立つ。だが、ボリス・ヴィアンを愛読し、オペラやクラシックを好む、どちらかといえば地味な16歳の少女のリアルな心情を、20歳で様式化して描くその力量には驚かされる。フランソワ・オゾン監督『17歳』は同じような年齢の少女を描くが、こちらは、家族関係の希薄さや、売春を繰り返す少女の得体の知れなさが誇張されていた。一方、本作のスザンヌは、大人になりかかっている少女の気持ちを飾ることなく表現している。シンプルな白シャツにジーパン姿でシャルロット・ゲンズブール風を装い、ウィスパーボイス調の主題歌を自分で歌ってしまうところはちょっとやりすぎな感もあるが、人物の描き分けの独特なセンスもあり、今後が大いに期待できる新人である。

◇初出=『ふらんす』2021年9月号

『ふらんす』2021年9月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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