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中条志穂「イチ推しフランス映画」

ロマン・ポランスキー監督がドレフュス事件を描く『オフィサー・アンド・スパイ』

映画『オフィサー・アンド・スパイ』

 
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監督:ロマン・ポランスキー Roman Polanski
ピカール:ジャン・デュジャルダン Jean Dujardin
アルフレッド・ドレフュス:ルイ・ガレル Louis Garrel
ポリーヌ・モニエ:エマニュエル・セニエ Emmanuelle Seigner

2022年6月3日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開

配給:ロングライド

[公式HP]https://longride.jp/officer-spy/

 巨匠ロマン・ポランスキー監督が、オスカー俳優ジャン・デュジャルダンを主役に、歴史上有名なドレフュス事件をサスペンス仕立てで描く。ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した。  19世紀末のフランス。ドイツに軍事機密を流したスパイ容疑で、ユダヤ人のドレフュス大尉が有罪となる。ドレフュスは無罪を主張していたが、終身刑を言い渡され、ギアナの悪魔島に収監される。一方、かつてドレフュスの教官をつとめたピカール中佐は、ドレフュス有罪の決め手となった文書が別人によって書かれた証拠を発見し、上官ゴンスに相談する。だがゴンスはピカールに黙秘を命じる。さらに、上層部は軍の不都合を隠蔽するため、ピカールを監視し、僻地に左遷する。しかしピカールは、作家エミール・ゾラに協力を求め、ゾラは新聞紙上に軍上層部の将軍らを名指しで糾弾する公開状を発表する。この告発に反ユダヤ勢力が猛反撃、フランス社会を分断する大論争が巻き起こる。ピカールは軍への忠誠心と、腐敗した権力を許さない良心のはざまで苦悩しながら、ドレフュス事件の再審に力を尽くすのだった……。ドレフュス役のルイ・ガレルはじめ、エマニュエル・セニエ、マチュー・アマルリック、メルヴィル・プポーなど錚々たる顔ぶれが出演。原題はゾラの公開状「J’accuse(私は告発する)」からとっている。

【シネマひとりごと】

 ドキュメンタリー映画『ロマン・ポランスキー 初めての告白』のポランスキーを見ると、もともと出発点が俳優だからなのか、じつに人間的な魅力に溢れていて、その語りにひきこまれる。俳優としてのデビュー早々にアンジェイ・ワイダ監督から才能を認められるが、映画学校で監督業に興味を持ち、デビュー作『水の中のナイフ』が世界的にヒット。『ローズマリーの赤ちゃん』、『チャイナタウン』、『テス』など次々と話題作を作り、『戦場のピアニスト』ではカンヌ国際映画祭パルムドールとアカデミー監督賞をダブル受賞し、名実ともに巨匠となった。だが、私生活ではじつに数奇で苛酷な経験をしている。母親はアウシュヴィッツのガス室で虐殺され、妊娠中だった妻のシャロン・テイトはチャールズ・マンソンのカルト集団に惨殺された。その後、ポランスキー自身も未成年淫行で逮捕され、各国を転々とするが、2007年、スイスのチューリッヒ映画祭を生涯功労賞受賞のため訪れた際に、33年前の事件の訴追で再逮捕される。こうした経緯を「#MeToo」運動は看過せず、本作(原題「私は告発する」)へのセザール監督賞授賞の際に、女優のアデル・エネルらが猛烈に抗議した事件は周知の通りだ。ポランスキーは皮肉にも自らが告発される側となってしまった。本作の主人公は、ユダヤ人を嫌いながらも公正心は捨てず、その一方で官僚夫人と不倫関係にある。清廉潔白とはいえない男の人間くさい魅力がポランスキーに重なる。私生活を晒され、事実を否定され、投獄されても信念を貫き通す主人公の強靭な精神力は、数々の苦境を乗り越えた監督にも通じるのだろう。この映画には86歳のポランスキー自身がすました表情で1カット出演しているのもお見逃しなく。

◇初出=『ふらんす』2022年6月号

『ふらんす』2022年6月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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