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中条志穂「イチ推しフランス映画」

爽やかな余韻を残す、今年屈指のお勧めの映画『ローラとふたりの兄』

映画『ローラとふたりの兄』

© 2018 NOLITA CINEMA - LES FILMS DU MONSIEUR - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - FRANCE 2 CINEMA

監督・ブノワ:ジャン=ポール・ルーヴ Jean-Paul Rouve
ローラ:リュディヴィーヌ・サニエ Ludivine Sagnier
ピエール:ジョゼ・ガルシア José Garcia
ゾエール:ラムジー・べディア Ramzy Bedia

2021年12月10日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開中

配給:サンリスフィルム、ブロードメディア

[公式HP]https://senlisfilms.jp/lola_and_bros/

 『愛しき人生のつくりかた』を大ヒットさせたジャン=ポール・ルーヴ監督の最新作。独身の妹と、その妹に過保護な、少々困り者の二人の兄の交流をユーモアたっぷりに描いて、大きな感動を誘う。

 フランス西部のアングレーム。弁護士のローラには、眼鏡店を営むブノワと、解体工事の監督をするピエールという二人の兄がいる。月一度、死別した両親の墓参りをして互いの近況を報告しあうことが、この三兄妹の恒例だった。だが、長兄ブノワの三度目の結婚式で、次兄ピエールがスピーチで新妻の名前を間違えるという大失敗をおかす。それがもとでブノワとピエールの仲がこじれ、間にはさまれたローラは苦労が絶えない。さらにピエールは仕事上のトラブルで失業し、ブノワのほうも新妻との関係がぎくしゃくしはじめる。一方、ローラは離婚調停の依頼人ゾエールと恋仲になる。子供好きなローラはすぐに子供を欲しいのだが、思うにまかせない……三兄妹のそれぞれが、悩みやハプニングに見舞われながら、家族の情愛で乗り越えてゆく。見る者を温かい気持ちにさせてくれる物語である。ヒロインのローラを演技派のリュディヴィーヌ・サニエが演じ、長兄ブノワを監督のルーヴ自身が演じている。

【シネマひとりごと】

 主演のリュディヴィーヌ・サニエは、セクシーさを売りものにした作品やコメディ路線から脱却し、ここ最近は是枝裕和監督『真実』での劇中劇出演や、『家なき子 天使の歌声』の地味な母親など、シリアスな役を意識して選んでいた。だが、本作では久しぶりに、サニエの弾けるような明るさやお茶目なキャラクターが復活し、生き生きとして魅力的だ。やはり彼女はこういう芸が似合う。それだけでなく、かつての小生意気な笑みが、本作では聖母のような慈しみをたたえた微笑に変わり、すがりつきたくなるような感じさえする。サニエの役だけでなく、ルーヴ監督作に出てくる人物はみな、あえて描かれない部分が鮮やかに想像できるような実体を持っていて、物語にひきこまれる。本作でも、主演3人はもちろんのこと、脇役の描き方がとにかく素晴らしい。例えば、ヒロインに対し、ずけずけとした物言いで婚活をすすめてくる小姑、兄妹たちが墓参りをするたびに横槍をいれてくる偏屈な老人、一見間抜けに見えるのんびりした同僚……小さな役にも生命を吹き込む人物造形の巧みさは突出している。空気の読めない少々ズレた人物に対しても、ありのままを否定しない寛容なやさしさがある。爽やかな余韻を残す、今年屈指のお勧めの映画だ。

◇初出=『ふらんす』2022年1月号

『ふらんす』2022年1月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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