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中条志穂「イチ推しフランス映画」

実話に基づく感動作『スペシャルズ!〜政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話〜』

『スペシャルズ!〜政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話〜』


© 2019 ADNP - TEN CINÉMA - GAUMONT - TF1 FILMS PRODUCTION - BELGA PRODUCTIONS - QUAD+TEN

監督・脚本:エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ Eric Toledano & Olivier Nakache
ブリュノ:ヴァンサン・カッセル Vincent Cassel
マリク:レダ・カテブ Reda Kateb

2020年9月11日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国順次公開

配給:GAGA

[公式HP]https://gaga.ne.jp/specials/

 フランスのみならず日本でも大ヒットを記録した『最強のふたり』のエリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ監督の最新作。障害を抱える若者たちと、彼らに寄り添って救おうとする人々の困難な戦いを描いた、実話に基づく感動作である。

 自閉症の青少年をサポートする団体「正義の声」を運営するブリュノは、目の回るような忙しい日々を送っている。重度の自閉を抱え、あらゆる施設から受け入れを拒否された少年や、奇声を発し街なかを疾走する少女、電車の非常ベルを押しては鉄道警察に捕まる青年など、30人ほどの世話を引き受け、どんな者も見放さず面倒を見る最後の砦として信頼されていた。一方、ドロップアウトした若者たちを社会復帰させる団体「寄港」を率いるマリクは、職業教育した若者をブリュノの施設に派遣し、お互いに協力し合いながら赤字経営ぎりぎりのところでふんばっていた。ところがある日、ブリュノの「正義の声」に監査局の査察が入ることになる。無認可、無資格の支援員を働かせている怪しげな団体とみなされ、閉鎖命令が下る恐れがあった……。

 トレダノ&ナカシュ監督は、自らの心身を削って他人のために生きる者たちの奮闘を、献身の美談にすることなく、厳しい現実をユーモアで包みながら描きだしている。原題はHors Normes(規格外)。

【シネマひとりごと】

 かつて、映画『憎しみ』や『クリムゾン・リバー』などで粗野で暴力的な役を得意としていたヴァンサン・カッセル。年齢を重ねるにつれ、ある時期から「もうアクションはやれない」と明かしていた。本作では慈愛あふれる温かみのある人物を演じ、アニキから親父へと見事な転身を実現している。カッセル演じる主人公の、自閉症児に接する姿勢がひたすら優しく、いままでのイメージが大きく覆される。名優の系譜で言えば、ジャン・ギャバン枠の最有力候補になってきているのではないだろうか? 

 一方、今回カッセルとコンビを組んだ俳優はレダ・カテブ。映画『ヒポクラテス』では、『愛していると言ってくれ』の豊川悦司ばりの(?)セクシーな手のしぐさで多くのファンを獲得し、セザール賞助演男優賞を受賞した。次いで、見た人の多くが「寝てしまった」というヴィム・ヴェンダース監督『アランフエスの麗しき日々』の主演では、永遠に続くかのような会話劇のなか、ふわりと巻いたストールからなみなみならぬ男の色気を発散し、薄れゆく意識を画面にとどまらせてくれた。本作『スペシャルズ!』では、社会からはみ出した若者たちを、時に厳しく愛情を持って導くリーダーに扮し、それでも隠しきれない色気をダダ漏れにさせながら、女性に縁のないカッセルをからかうさまが微笑ましい。本作だけで終わらせてほしくない名コンビ、彼らもまた「最強のふたり」なのである。

◇初出=『ふらんす』2020年9月号

『ふらんす』2020年9月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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