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中条志穂「イチ推しフランス映画」

ミゼリコルディア


© 2024 CG Cinéma / Scala Films / Arte France Cinéma / Andergraun Films / Rosa Filmes

3月22日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国劇場順次公開
配給:サニーフィルム
[公式HP] https://www.sunny-film.com/alain-guiraudie

監督:アラン・ギロディ Alain Guiraudie
ジェレミー:フェリックス・キシル Félix Kysyl
マルティーヌ:カトリーヌ・フロ Catherine Frot
神父グリゾル:ジャック・ドゥヴレイ Jacques Develay

 現在、フランスで最も注目を浴びる鬼才アラン・ギロディ監督の本邦劇場初公開の作品。昨年のルイ・デリュック賞を受賞した。
 南西フランスの丘陵地帯の村。ジェレミーはかつて働いていたパン屋の親方の葬儀に参列するため帰郷し、未亡人マルティーヌのすすめで数日間、彼女の家に滞在することになる。マルティーヌには、独立して所帯を持つ息子ヴァンサンがいるが、彼はジェレミーを目の敵にし、ジェレミーが母マルティーヌを狙っていると疑い、何かにつけジェレミーを挑発していた。一方、ジェレミーは旧友ワルターの家を訪れ、ワルターに欲情して体に触れようとするが、拒否され猟銃で追い出される。その帰りの山道で、ジェレミーはヴァンサンに遭遇し、突然ヴァンサンから殴られる。明け方になってジェレミーがマルティーヌの家に戻ると、彼女は息子が家に帰っていないと心配している。皆がヴァンサンの行方を探す中、神父のグリゾルはジェレミーに告白をしたいと言いだすのだった……。
 次々と観客の予想をくつがえし、息詰まるミステリーの雰囲気を醸し出しながら、不思議なユーモア感覚に溢れている。昨年の「カイエ・デュ・シネマ」誌ベスト1にも選ばれた、いま見るべき映画の1本である。原題は「Miséricorde」(罪の赦し)。

【シネマひとりごと】
 本作はフランスの権威ある映画誌「カイエ・デュ・シネマ」で2024年のベスト1映画に選出された。ギロディ監督の作品がベスト1に選ばれたのは『湖の見知らぬ男』(2013)に次いで二度目である。ちなみに日本の作品で第一位となったのは1959年と1960年の、溝口健二の『雨月物語』と『山椒大夫』、1997年の北野武の『HANA-BI』のみだ。本国でこれほど注目を浴びていながら、ギロディ作品は今回、日本で初めての劇場公開となる。さらに本作とあわせて2本の過去作『湖の見知らぬ男』と『ノーバディーズ・ヒーロー』(2022)も同時に公開される。『湖の見知らぬ男』はギヨーム・ブラック作品を思わせるのどかな湖畔で、男同士の情事からシャブロルばりのスリラーへ一転する物語、もう一本の『ノーバディーズ・ヒーロー』(2022)は、ノエミ・ルヴォウスキー扮する中年娼婦に恋した男が、テロの不安のなかで次々とトラブルに巻き込まれる皮肉なコメディだ。この3作に共通しているのは、登場人物が道徳観とも社会的規範とも関係なく生きていることである。観客の思い込みや偏見はことごとく打ち砕かれ、判断の軌道修正が追いつかないのだ。もう一つの共通点は独特のユーモア感覚である。例えば、どの作品にも太った男が全裸ないし半裸で登場し、監督の趣味であることは想像に難くないが、『ミゼリコルディア』でも、息子が行方不明になった緊張した空気のなか、母親がテレビで見ているのは日本の大相撲の取組み映像だ。何でこの場面でスモウ中継が(配信か)? 単にマワシ姿の力士を出したかっただけなのだろうか……? ミステリーなのに不謹慎な笑いを誘う場面が散見され、スペインの異才アルベルト・セラの『ルイ14世の死』を想起させる……と思ったら、セラ監督は本作に製作で参加している。ステレオタイプな考えを無視した大胆な発想力と、スリルとユーモアの境界すれすれを自由に闊歩するギロディ監督の摩訶不思議な味わい。このチャンスをお見逃しなく。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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