2017年11月号 『婚約者の友人』
© Mandarin Production – FOZ – X FILME Creative Pool GmbH – Mars Films – France 2 Cinéma – Films Distribution
『婚約者の友人』
+ Réalisateur François Ozon
+ Adrien Pierre Niney
+ Anna Paula Beer
+ Hoffmeister Ernst Stötzner
2017年10月21日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開中
配給 : ロングライド
公式HP : http://frantz-movie.com/
いまやフランス映画界に不可欠の存在となった人気監督、フランソワ・オゾンが放つ観客への挑戦状ともいうべきミステリー。
1919 年、第一次世界大戦が終わってまもないドイツのある村。若く美しいアンナは喪服に身を包み、戦死した婚約者フランツの墓参りをする日々を送っている。身寄りのないアンナは、フランツの死後も、彼の両親を実の娘のごとく支えて暮らしていた。ある日、アンナはフランツの墓前で見知らぬ男が泣いているのを見つける。その名はアドリアン。フランス人で、フランツがパリを旅行したときに知り合った友人だという。フランツの父親は息子を殺したフランス人すべてを憎んでいたが、はるばるフランスから息子のために花を手向けにやってきたアドリアンを受け入れる。アドリアンはパリでのフランツの思い出話をし、フランツの両親はアドリアンの来訪を心待ちにする。そしてアンナもアドリアンに「婚約者の友人」以上の思いを寄せるようになる。だがアドリアンには彼らに隠している秘密があった。そして、ついにその秘密をアンナに告げるのだが……。名匠エルンスト・ルビッチ監督の『私の殺した男』を大胆なミステリー仕立てに脚色し、オリジナルとはまったく違うエンディングで楽しませてくれる。原題はFrantz(フランツ)。
【シネマひとりごと】
本作の原案はエルンスト・ルビッチ監督の『私の殺した男』(原題Broken lullaby)。この邦題だけでなんとなくオゾンの仕掛けた謎を推察できてしまう方もいらっしゃるかもしれない。ルビッチのほうは、映画監督の西川美和氏も絶賛しているが、艶笑ものを得意とするルビッチには珍しいきわめてシリアスな反戦映画である。『私の殺した男』は冒頭で種明かしがされているため、観客に対する謎の提示はない。一方、オゾン監督のほうは、物語中盤で謎は明かされるものの、あの手この手の技巧で最後までサスペンスを持続させる。
このサスペンス劇の要を握るのは、主演のフランス男を演じた、繊細な美貌のピエール・ニネ。ジャレル・レスペール監督作『イヴ・サンローラン』で彼を見たときから、いつかオゾンが起用するに違いないと思っていたが、やはりこの美男を見逃すはずはなかった。先月号で美形俳優ニールス・シュネデールを紹介してまたかと思われそうだが、今月はオゾン監督(の趣味)でもあるのでどうかご勘弁を。そのオゾンは、主演女優パウラ・ベーアには終始、修道女のような露出少なめの服を着せているのに、ニネには下着姿で水浴させたり、ウエストが極度に絞られた三つ揃いスーツや乗馬服をまとわせる。ニネの背中にきらめく水のしずく、濡れたおくれ毛、目を閉じた横顔の長い睫毛……監督を含む一部観客へのサービスとしか思えない趣味のオンパレードだ。そしてそうしたニネを愛でるシーンを見せられるうちに、観客もオゾンの術中にはまっていく。監督曰く、「ニネは女性的な一面や脆さを表現することを恐れていない」。そんなニネの持ち味を最大限に活用してオゾン監督は観客の妄想をかきたてる。そしてルビッチ版にはない、どんでん返しのエンディングへと導くのだ。この技には誰もが唸らせられることだろう。
◇初出=『ふらんす』2017年11月号
*『ふらんす』2017年11月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。