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中条志穂「イチ推しフランス映画」

ラジ・リ監督の最新作『 バティモン 5 望まれざる者』


映画『 バティモン 5 望まれざる者』
(写真)
© SRAB FILMS - LYLY FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - PANACHE PRODUCTIONS – LA COMPAGNIE CINÉMATOGRAPHIQUE – 2023

 

監督:ラジ・リ Ladj Ly
出演:アビー/アンタ・ディアウ Anta Diaw
ピエール・フォルジュ/アレクシス・マネンティ Alexis Manenti
ロジェ・ロシュ/スティーヴ・ティアンチュー Steve Tientcheu

 

5月24日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
配給:STAR CHANNEL MOVIES
[公式HP] https://block5-movie.com/

 

 前作『レ・ミゼラブル』で、パリ郊外の移民の若者たちの憤懣(ふんまん)を緊迫感のある映像で描き、フランス社会の暗部を世界に知らしめたラジ・リ監督の最新作。
 パリ郊外にあるいくつもの団地の一画、通称バティモン5。ここは老朽化が進み、再開発のための建替え計画が持ち上がっている。そんなおり市長が急逝し、急遽、医者のピエールが臨時市長を務めることになる。ピエールはこの界隈の復興と治安改善に理想を描いていた。だが、解決を急ぐあまり移民排除に傾き、夜間禁止令まで出してしまう。一方、この団地で移民の住宅支援スタッフとして働くアフリカ系フランス人女性アビーは、移民たちの置かれた厳しい現実に日々向き合い、彼らの信頼を得ていた。アビーはピエールら行政側の横暴なやり方と真っ向から対決し、自ら市長選挙に立候補することを決意する。そんなある日、この団地で違法に営業していた食堂が火事をおこし、団地の一角が燃えてしまう。ピエールはこれを機にとばかり、住民の強制退去に踏みきり、行政側と住民は激しい抗争に突入してゆくのだった……。『レ・ミゼラブル』の続編ともいうべき本作は、バンリュー(郊外)で実際に起きている移民の住宅問題に深く切り込み、排除され追いつめられる側の怒りの感情をありありと伝えている。原題はBâtiment5(5号棟)。

 

【シネマひとりごと】
 今年の夏季五輪開催を控えるフランス・パリ。開会式をセーヌ川で予定するなど、花の都の見せどころと盛り上がっているが、一方で本作のような暗部を相変わらず抱えている。そんなパリの不都合な真実を訴えるラジ・リ監督に大いに賛同しているのが、前作『レ・ミゼラブル』に続いて本作にも出演する女優ジャンヌ・バリバールである。前作では警察署長、本作では政治家と、外見がクールビューティのせいか官僚的な冷たさを感じる役を演じている。両作とも憎まれ役で、フランスきっての実力派女優でもあるバリバールが比較的小さな役についているのが不思議な感じもするが、彼女は明らかに出演作を吟味している。タイの巨匠アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の摩訶不思議な佳作『メモリア』でもバリバールは脇役の考古学者役として意外な出演をはたしていた。アピチャッポン監督は政治的および社会的批判が作品内で見られるとしてタイ政府から国内での創作活動を制限されている。また、バリバールは、歌手バルバラの自伝的映画『バルバラ~セーヌの黒いバラ~』で主役をひきうけた理由の一つに、バルバラのひそかな政治活動をあげていた。世の中の不平等に対し、自己宣伝とならないよう控えめに活動するバルバラの姿勢にバリバールも共感を持ったという。彼女のつねに毅然とした物腰はこうした確固たる信念に支えられているのだろう。わずかな出演場面でも圧倒的な存在感を刻みつける当代随一のカッコいい女優だ。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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