映画『モンテ・クリスト伯』
© 2024 CHAPTER 2 – PATHE FILMS – M6 - Photographe Jérôme Prébois
監督:マチュー・デラポルト Matthieu Delaporte / アレクサンドル・ド・ラ・パトリエール Alexandre de La Patellière
エドモン・ダンテス:ピエール・ニネ Pierre Niney
ヴィルフォール:ロラン・ラフィット Laurent Lafitte
2025年11月7日(金)よりTOHOシネマズシャンテ他にて全国順次公開
配給:ツイン
[公式HP] https://monte-cristo.jp/
文豪アレクサンドル・デュマによる冒険小説の古典『モンテ・クリスト伯』を新たに映画化した、復讐劇の超大作。
1815年、マルセイユ。若き航海士ダンテスは船長に任命され、恋人メルセデスと結婚も決まり、輝かしい未来が待っているはずだった。だが、結婚式当日、流刑に処せられたナポレオンの手先だという罪を着せられ逮捕されてしまう。終身刑となったダンテスは孤島の牢に投獄され、数年後には生きる気力を失っていた。そんなある日、牢の石壁の穴から、隣の独房の司祭ファリアに声をかけられ、脱獄に希望を見出す。彼はファリアからさまざまな知識を授かり、モンテ・クリスト島に隠された財宝のことも教えてもらう。そして10年後、ダンテスは奇跡的に脱獄に成功し、財宝を手に入れ大富豪となる。モンテ・クリスト伯として再出発した彼は、自分を密告した船員仲間、裏切った友人、無実の証拠を握りつぶした検事らに大掛かりな罠を仕掛けるのだった……。
日本では「巌窟王」としてなじみ深い波乱万丈の大長編を大胆に縮約し、自分を陥れた者を周到な計画で罠に追いこむ復讐のドラマに焦点を当てている。セザール賞を受賞した豪華な美術と衣装、壮大なセット撮影、そして主人公ダンテスを演じた人気俳優ピエール・ニネの華麗な変装が大きな見どころとなっている。
【シネマひとりごと】
本作に出てくるモンテ・クリスト伯の邸宅は外観や内部のアラブ風の部屋など、実際の「モンテ゠クリスト城」に酷似している。この城は、デュマが『三銃士』と『モンテ・クリスト伯』で大儲けした財産をつぎこんで作ったこだわりの城で、パリ西郊のポール゠マルリーという小村にあり、実際に見学できる。また、ダンテスが投獄されたシャトー・ディフは、マルセイユ海岸から2キロほどのイフ島にある城塞で、今は牢獄ではないが、かつては多くの政治犯が投獄されていた。アメリカの悪名高いアルカトラズ島の刑務所同様(こちらは先頃トランプ大統領が再建を命じたが)、シャトー・ディフは観光地化され、ダンテスの牢などを再現した人気スポットとなっている。ダンテスはこの島から奇跡の脱出をはかる。本作の大きな見せ場だ。華奢だと思っていたピエール・ニネがいつのまにか筋肉質な細マッチョになっていたのも意外だったが、きっちり閉じられた麻の死体袋からの、引田天功ばりの水中大脱出はまさにマジック、この手のアクション撮影を得意とするニネの技が光る。
ニネは映画『イヴ・サンローラン』での線の細い優男の印象が強かったため、本作冒頭で浅黒い顔の船乗りとして登場したときは違和感を抱いたが、モンテ・クリスト伯になったのちの、数か国語を操る謎の大富豪のストイックな佇まい、全身黒ずくめの激シブファッションに心を射抜かれる。彼ももう36歳。ダンディズムの境地に目下移行中なのだと感じ入った。驚くべきはニネの変身術で、年老いた神父から恰幅のいい豪胆な実業家まで、特殊メイクの効果もあるが話し方や仕草が、別人が演じているとしか思えない。ファンとして残念なのは、物語の半分以上にニネではない顔で登場していることだが、超大作の主役にまで飛躍した役者の快進撃に拍手を送りたい。



