女性同士の情熱的な愛の物語『燃ゆる女の肖像』
『燃ゆる女の肖像』
© Lilies Films.
監督・脚本:セリーヌ・シアマ Céline Sciamma
マリアンヌ:ノエミ・メルラン Noémie Merlant
エロイーズ:アデル・エネル Adèle Haenel
伯爵夫人:ヴァレリア・ゴリノ Valeria Golino
2020年12月4日(金)TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開
配給:GAGA
[公式HP]https://gaga.ne.jp/portrait/
グザヴィエ・ドランはじめ、世界の名だたる映画人を熱狂させた、女性同士の情熱的な愛の物語。
18世紀のフランス。女性画家のマリアンヌは、伯爵家の娘エロイーズの見合いのための肖像画を依頼され、ブルターニュの孤島の館に赴く。しかし、エロイーズに結婚の意志がなく、肖像画のモデルを拒んでいたため、マリアンヌは画家であることを隠して散歩相手として近づくよう命じられる。マリアンヌはエロイーズを観察しながら密かに肖像画を仕上げ、ついには彼女に画家であることを告白し、完成した肖像画を見せる。だが、エロイーズは肖像画に描かれている人物は自分ではないと否定する。プライドを傷つけられたマリアンヌが描き直すことを決心すると、意外にもエロイーズはモデルになってもいいと告げる。二人は、画家とモデルとしてキャンバスをはさんで互いを見つめ合う。そして島を散策したり、音楽や文学について語らううちに愛し合うようになる。だが幸福な時間は束の間で、肖像画の完成と別れが迫っていた……。実人生でもパートナーだったセリーヌ・シアマ監督と主演女優のアデル・エネルが別離後に撮った作品。忘れ難い愛の記憶と切ない想いを独創的な美しい映像に刻み込んでいる。カンヌ国際映画祭脚本賞受賞。原題はPortrait de la jeune fille en feu(燃えている娘の肖像)。
【シネマひとりごと】
本作は2019年のカンヌ国際映画祭で、脚本賞だけでなくクィア・パルム賞も受賞している。この賞は2010年に設立されたカンヌの賞の一つで、LGBTをテーマにした作品に与えられる。過去にグザヴィエ・ドラン監督『わたしはロランス』や、トッド・ヘインズ監督『キャロル』、ロバン・カンピヨ監督『BPM ビート・パー・ミニット』などの傑作が受賞している。ちなみに前々号でご紹介したドラン監督の『マティアス&マキシム』もクィア賞にノミネートされていたが、本作に敗れた。クィアを代表する人気女優のクリステン・スチュワートが「レザンロック」誌でシアマ監督と女優エネルへの熱烈な賛辞を送ったのも頷けるほど美しい映画だ。カット・カットがフェルメールの絵のように静謐なたたずまいを呈している。
タイトルにもある通り、本作は肖像画の製作が大きなモチーフになっているのだが、ラストではもう一枚の肖像画が映し出される。その絵に秘められた痛切な愛のメッセージに気づき、思わず落涙してしまった。だが、シアマ監督はそこで物語を終わらせず、さらに強烈なショットをたたみかける。実に2分以上も、音楽のみで無言のエネルの顔を映し続け、暗転させる。この圧巻の結末は、シアマ監督から実人生での恋人だった女優エネルへの最後の愛の贈り物のようにも思えて切ない。
◇初出=『ふらんす』2020年12月号
*『ふらんす』2020年12月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。