犬の裁判
© BANDE À PART - ATELIER DE PRODUCTION - FRANCE 2 CINÉMA - RTS RADIO TÉLÉVISION SUISSE - SRG SSR - 2024
2025年5月30日(金)よりシネスイッチ銀座ほかにて全国公開中
配給:オンリー・ハーツ
[公式HP] http://kodi.onlyhearts.co.jp/
監督・アヴリル レティシア・ドッシュ Laetitia Dosch
ミコヴスキ フランソワ・ダミアン François Damiens
ロズリーヌ アンヌ・ドルヴァル Anne Dorval
コスモス コディ(犬) Kodi
人を噛んだ罪で安楽死処分される犬の弁護を引き受けた弁護士の奮闘と、犬の権利に関する考察を皮肉を交じえつつコミカルに描く異色作。カンヌ国際映画祭の最優秀犬賞(パルム・ドッグ)を受賞した。
スイスのとある都市。裁判に負けてばかりの弁護士アヴリルは、事務所から解雇をちらつかされ、次の裁判での勝利を固く誓う。ところが、次に依頼してきたのは盲目の男で、人間に噛みついた飼い犬コスモスの弁護をしてほしいという。コスモスが人間に噛みついたのは3度目で、スイスの法律では3度噛みついた犬は安楽死処分されることになっている。負け戦は目に見えていたが、アヴリルは見過ごすことができず、結局弁護を引き受けてしまう。犬の弁護人という常軌を逸した状況のなかで、彼女は、犬は人間と同等だという理論に基づき懸命に弁護を行う。一方、噛みつかれた原告側には右翼過激派の弁護士がつき、コスモスが女性だけに噛みつく「女性差別主義者」だと主張する。やがて、市民は犬擁護派と殺処分派に分かれ、町全体を巻き込んでの大騒動に発展する。犬が被告人として法廷に立つ前代未聞の裁判の行方はいかに?
主演はこの作品が初監督作となるレティシア・ドッシュ。犬と人間の関係性を鋭く抉りながら、さまざまな社会的問題を突きつけてくる作品である。
【シネマひとりごと】
本作の前年にパルム・ドッグ賞を受賞したのはジュスティーヌ・トリエ監督『落下の解剖学』のボーダーコリー犬だった。本作同様、飼い主が盲目で、犬が裁判に関係するドラマという共通点があり、その偶然に驚かされる。このパルム・ドッグ犬はすこぶる芸達者で、嘔吐の表情まで演技して見せるように思われた。一方、本作の犬もシャンソンに合わせてリズミカルに吠えたり、アクロバティックに飛び回ったりと、さすがサーカス出身の犬らしい名演を見せている。この犬は本作では女性だけに噛みつく習性があるという設定だが、サミュエル・フラー監督の傑作スリラー『ホワイト・ドッグ』(1982)では、真っ白なシェパードが、白人の人種差別主義者によって黒人を攻撃するように特別に訓練されていた。白い毛の犬が牙を剥き出し、人間を噛みちぎった血で口の周りを赤くしている映像は衝撃的である。『ホワイト・ドッグ』は、人間に植え付けられた犬の差別意識を矯正できるかどうかがテーマだったが、本作もまさにその問題に取り組んでいる。ヒロインの弁護士が、女性差別意識のある犬を矯正すべく犬と格闘する場面では、愛玩動物だったはずの犬が恐ろしい形相をあらわにする。それが演出による犬の演技であることに虚を突かれると同時に、人間の手で差別意識を刷り込むことができる恐怖にも気づく。犬と人間の複雑な関係について答えなき問いを投げかける映画である。