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中条志穂「イチ推しフランス映画」

2018年6月号 『告白小説、その結末』

© 2017 WY Productions, RP Productions, Mars Films, France 2 Cinéma, Monolith Films. All Rights Reserved.

『告白小説、その結末』

+ 監督・脚本:ロマン・ポランスキー Roman Polanski
+ デルフィーヌ:エマニュエル・セニエ Emmanuelle Seigner
+ エル:エヴァ・グリーン Eva Green
+ フランソワ:ヴァンサン・ぺレーズ Vincent Pérez

2018年6月23(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

配給:キノフィルムズ
[公式HP]http://www.kokuhaku-shosetsu.jp

 

 サスペンス映画の鬼才ロマン・ポランスキー監督が、人気女性作家と熱狂的なファンの危険な関係をミステリアスに描いた作品。

 母親の自殺を扱った自伝的小説でベストセラー作家となったデルフィーヌは、サイン会でエル(Elle=彼女)という謎めいた美女に出会う。ゴーストライターを生業とするエルは、持ち前の強引さでデルフィーヌにさまざまな助言をし、デルフィーヌはエルの妖艶な魅力に引かれて、自分の一番の理解者と感じるようになる。差出人不明の脅迫状や、次作の構想に頭を悩ませていたデルフィーヌは、エルに依存するようになり、二人は共同生活を始める。だが、エルは次第にデルフィーヌを精神的に支配し、彼女の友人に勝手にメールを送ったり、常軌を逸した行動に出る。エルの目的は何か? エルを小説の題材に利用しようとしたデルフィーヌだが、逆にエルの底知れぬ罠に落ちてゆくのだった……。ポランスキー監督が、現実とも夢とも見分けのつかぬ物語を技巧的な演出で鮮やかに描きだす。主演をつとめるのはポランスキー監督の妻であり、ミューズでもあるエマニュエル・セニエ。オリヴィエ・アサイヤスが脚本に参加している。本作の原題は、原作のデルフィーヌ・ド・ヴィガンの小説D’après une histoire vraie(「実話をもとに」)から取っている(邦題は『デルフィーヌの友情』)。

【シネマひとりごと】
 エマニュエル・セニエの魅力はずばり、目である。どこを向いているか分からない三白眼の眼差しの深さが、ミステリー映画の女優にじつにふさわしい。彼女の魅力を一番分かっている夫のポランスキー監督は、彼女を主演に『赤い航路』、『ナインスゲート』、『毛皮のヴィーナス』など撮り続けてきたが、今回、セニエはこうした魔性の女の役を若手に譲り、今までとは逆に追い詰められる役を演じた。かくしてポランスキーが新たに見つけてきた女優が、強烈な目力を放つエヴァ・グリーンである。女優のマルレーヌ・ジョベールを母親に、マリカ・グリーンを叔母に持つ整った顔立ちの美女で、ベルトルッチの『ドリーマーズ』でデビューし、『007 カジノロワイヤル』でボンドガールを演じ国際的スターの仲間入りをした。その後、ティム・バートン監督に気に入られ、2作品連続で出演、『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』では、バートン好みのくせのある役をこなしたが、本作でも倒錯的な異彩を放つ。セニエよりもやや上品なアバズレ感を漂わせているものの、顔に般若が宿ったような怖ろしさ。なるほど、美しい顔が不気味に歪む表情は、バートンやポランスキーの新ミューズ誕生を決定づけるものにちがいない。その他、かつて「視線で妊娠させる男優」との異名をとった、やはり眼光鋭い俳優ヴァンサン・ペレーズも出演しているのだが、こちらは誰だか二度見しないと分からず(泣)……。ともあれ、いずれ劣らぬ視線俳優を勢揃いさせたポランスキーの「告白小説」の結末をどうぞお見逃しなく。

◇初出=『ふらんす』2018年6月号

『ふらんす』2018年6月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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