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中条志穂「イチ推しフランス映画」

『おかえり、ブルゴーニュへ』


© 2016 - CE QUI ME MEUT - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA

『おかえり、ブルゴーニュへ』

+ 監督:セドリック・クラピッシュ Cédric Klapisch
+ ジャン:ピオ・マルマイ Pio Marmaï
+ ジュリエット:アナ・ジラルド Ana Girardot
+ ジェレミー:フランソワ・シビル François Civil

2018年11月17日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次公開

配給:キノフィルムズ/木下グループ

[公式HP]http://burgundy-movie.jp

 

 『猫が行方不明』、『スパニッシュ・アパートメント』など、主に都会の若者たちの群像劇を題材にしてきたセドリック・クラピッシュ監督が、ブルゴーニュの葡萄畑を舞台に、父親の突然の死で揺らぐ家族の姿を情感豊かに描いた作品である。

 フランス、ブルゴーニュ地方。葡萄園を経営する一家の父親が倒れ、長男のジャンが10 年ぶりに故郷に帰ってくる。ジャンは父親と折り合いが悪くなって家を飛び出し、家業は長女のジュリエットが継いでいる。だが父親の入院で、ジュリエットは看病や畑の管理で疲弊し、次男のジェレミーは姉を手伝いながらも、妻の実家での婿養子としての立場に悩まされていた。そんなときふらりと帰ってきた兄に対し、ジュリエットやジェレミーは複雑な思いを抱える。まもなく父親が亡くなり、残された葡萄畑や自宅に高額な相続税がかかることになる。葡萄畑を売るしかないと考えるジャン、売りたくないジュリエット、舅に葡萄畑の買い上げを提案され悩むジェレミー。三人のそれぞれの思いがぶつかりあう。やがて父親が亡くなって初めての収穫時期を迎えるのだった……。ブルゴーニュの美しい四季の移ろいとともに、家族の絆が少しずつ修復されていく様子を、ノスタルジックな回想を織り交ぜつつ描いている。原題はCe qui nous lie( 私たちを結ぶもの)。

【シネマひとりごと】

 パリやニューヨークを舞台に、若者たちの恋愛模様を軽やかに描いてきたセドリック・クラピッシュ。その監督がいまや、もう1 年中どこにも行かずにパリで過ごすことには耐えられないと、ずいぶん前から田舎で映画を撮ることを切望していたという。クラピッシュも年をとったのかなと思ったが、そんな心配もなんのその、舞台を田舎に移してはいるものの、本作はクラピッシュ風味たっぷりの物語となっている。

 数年前に公開されたジェローム・ル・メール監督の『ブルゴーニュで会いましょう』も、葡萄畑を舞台にバラバラになった家族の再生を描いた作品だった。本作と舞台も設定もよく似ているのだが、登場人物たちは細心の注意を払って葡萄を扱っていた。ところが、『おかえり、ブルゴーニュへ』では、畑で葡萄を投げ合い、ぶつけ合う。これには葡萄畑を有する全ドメーヌから抗議が出るのではないか……? だが、修学旅行の枕投げも絶滅した今、こういう青春のやんちゃな1 コマを見せてくれるクラピッシュ節は健在である。そして、お約束のひと夏のアバンチュールも忘れてはいない。葡萄園の男勝りな後継者に扮したアナ・ジラルドが、短パンの素足で大樽の葡萄を踏んでいたかと思うと、収穫祭の酔った勢いで日雇い労働者と羽目をはずすのだ。この女優の実の父親は俳優イポリット・ジラルド。父譲りの、つかみどころのない隟だらけの雰囲気が、クラピッシュ好みのあけっぴろげな人間像によくはまっている。登場人物の年齢は若者から中年に変わりはしたが、クラピッシュ監督の気分は、いまだ「青春シンドローム」の真っただ中のようだ。

◇初出=『ふらんす』2018年11月号

『ふらんす』2018年11月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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