人気俳優ピエール・ニネ主演作『ブラックボックス 音声分析捜査』
映画『ブラックボックス 音声分析捜査』
© 2020 / WY Productions - 24 25 FILMS - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA - PANACHE Productions
監督・脚本:ヤン・ゴズラン Yann Gozlan
マチュー:ピエール・ニネ Pierre Niney
ノエミ:ルー・ドゥ・ラージュ Lou de Laâge
レニエ局長:アンドレ・デュソリエ André Dussollier
2022年1月21日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開中
配給:キノフィルムズ
[公式HP]https://bb-movie.jp/
『イヴ・サンローラン』でセザール賞を受賞した人気俳優ピエール・ニネの主演作。
フランスの航空事故調査局(BEA)に勤めるマチューは天才的な音声分析官。ある日、ヨーロピアン航空の最新型機がアルプスで墜落し、乗客全員が死亡する大惨事が起こる。事故の原因究明のために、機内のボイスレコーダーが入っている通称ブラックボックスの分析が始まるが、なぜかマチューは調査チームから外される。ところがこのチームの責任者ポロックが数日後に謎の失踪をとげ、調査はマチューに引き継がれることになる。マチューはボイスレコーダーの音声を分析し、イスラム過激派によるテロと推理するが、犠牲者の家族から聞かされた墜落直前の電話の音声からは別の事実が浮かび上がる。ボイスレコーダーから故意に一部の音声が消されていたのだ。ブラックボックスへの疑念をつのらせたマチューは死の危険にさらされながら真相を暴こうとするのだが……。監督のヤン・ゴズランは、前作『パーフェクトマン 完全犯罪』に続き、再びニネを主役に迎え、航空機業界の内幕を暴くスリリングなドラマに仕上げている。
【シネマひとりごと】
実在の事件をもとに作られた、クリント・イーストウッド監督の『ハドソン川の奇跡』では、乗客全員が助かったにもかかわらず、機長の判断ミスが疑われてブラックボックスの音声記録を聞く場面がある。一方、本作のように、墜落事故の生存者が一人もいない状況では、ブラックボックスは原因究明の唯一のダイイングメッセージとなる。その最後のメッセージを聞き取るために、神経を削るような繊細な作業を行うのが音声分析官だ。本作でニネは、耳が敏感すぎるがゆえに強迫観念にとらわれる天才的な分析官に扮し、萌え確定のヘッドホン&メガネ男子姿で、まさにプロフェッショナルの魅力をふりまいている。監督のヤン・ゴズランは、前作『パーフェクトマン 完全犯罪』の役名(マチュー・ヴァスール)とまったく同じ役名でニネを本作の主役に据えた。ニネはコメディ・フランセーズ出身を裏付ける確かな演技力で、神経衰弱ぎりぎりの男を演じるのが本当にうまい。『パーフェクトマン』では『太陽がいっぱい』のリプリーさながらに、嘘を重ねて追い詰められるさまが痛々しかった。夜の海に飛び込み、建物から飛び降り、脅迫者にゆすられ、死体も隠さなくては……と、忙しすぎるザ・ピエール・ニネ劇場。本作でもそのひとり芝居は続き、またしても夜の池に飛び込んだり、ハイスピードで車をぶっとばしてハンドル相手に悪態をつき追手から逃げまくる。睫毛に楊枝3本は乗りそうな見目麗しいニネを延々と痛めつけるのは監督の趣味か? ニネに対する監督のぞっこんぶりから、トリュフォーのアントワーヌ・ドワネルのように、変化していくニネのマチュー・ヴァスールが今後も見られると確信している。
◇初出=『ふらんす』2022年2月号
*『ふらんす』2022年2月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。