秋が来るとき
© 2024 – FOZ – FRANCE 2 CINEMA – PLAYTIME
2025年5月30日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次公開
配給:ロングライド、マーチ
[公式HP] https://longride.jp/lineup/akikuru
監督:フランソワ・オゾン François Ozon
ミシェル:エレーヌ・ヴァンサン Hélène Vincent
マリー゠クロード:ジョジアーヌ・バラスコ Josiane Balasko
ヴァレリー:リュディヴィーヌ・サニエ Ludivine Sagnier
いまや巨匠ともいえるフランソワ・オゾン監督の新たな秀作。特殊な過去を背負った老女が友情に支えられ、秘密を抱えながらも、たくましく生きる姿を描く。
フランス、ブルゴーニュの田舎町。80歳の老女ミシェルは静かな独り暮らしのかたわら、読書や野菜の栽培にいそしみ、親友マリー゠クロードとのおしゃべりを楽しんでいる。マリー゠クロードとは、かつて同じ仕事をしていたよしみもあり、固い友情で結ばれていた。マリー゠クロードには刑務所を出たばかりの一人息子ヴァンサンがいるが、ミシェルは彼のことも親身に世話している。ある秋の日、ミシェルの娘ヴァレリーと孫の少年ルカが休暇を過ごしにやってくる。ミシェルはこの日を心待ちにして、森で採ったキノコで料理を作るが、ヴァレリーがキノコ中毒で病院に運ばれてしまう。母親がかつて娼婦だったことを軽蔑していたヴァレリーは、母親が自分を毒殺しようとしたと思い、それ以来連絡を絶つ。孫に会わせてもらえなくなったミシェルはふさぎ込み、そんなミシェルを見たヴァンサンは、ヴァレリーを説得するためにパリに向かうのだが……。
罪は悔い改めれば赦されるという、人生を肯定的に受け止めるメッセージのこもった感動的な人間ドラマになっている。オゾンの秘蔵っ子と呼ばれた女優リュディヴィーヌ・サニエが、ヒロインの娘役で22年ぶりにオゾン作品に登場したことも話題だ。
【シネマひとりごと】
物語は主人公が教会の神父からマグダラのマリアの説話を聞く場面から始まる。マグダラのマリアは、もともとは娼婦で、罪を赦され聖女となったといわれる。そのため、娼婦の守護聖人とされている。絵画では改悛を意味する赤い衣服を身に着け、長い髪をおろした姿で描写されることが多い。本作のヒロイン、ミシェルもかつて娼婦だったという過去がある。現役を退いて田舎での静かな暮らしぶりが淡々と描かれるなか、普段のファッションや仕草の端々に、娼婦だったころの名残りを絶妙に感じさせる演出が素晴らしい。その最たるものが、親友の息子のバーの開店パーティだ。ミシェルは、いつもまとめていた髪をおろし、マグダラのマリアの衣を思わせる深紅のスーツ姿で踊りまくる。オゾン作品ではお約束の女優の踊りの場面だ。演じるのは実人生でも81歳のエレーヌ・ヴァンサン。ステファヌ・ブリゼ監督『母の身終い』(2012)では、不治の病に冒され自ら安楽死を望む老女を毅然と演じたので、ミスマッチの配役かと思いきや、そこは女優の扱いに長けたオゾンの必殺技である。エレーヌの身体に元娼婦の過去を持った生々しい人間ミシェルを宿らせている。どんな人間も人生をやり直すチャンスがある、と言うミシェルは罪を赦された聖女だったのか? いかようにも解釈できるオゾンの巧妙な脚本に唸らされること間違いなしの作品である。(ちゅうじょう・しほ)