オークション 盗まれたエゴン・シーレ
©2023-SBS PRODUCTIONS
2025年1月10日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほかにて全国順次公開
配給:オープンセサミ、フルモテルモ
[公式HP] https://auction-movie.com/
監督:パスカル・ボニゼール Pascal Bonitzer
アンドレ:アレックス・リュッツ Alex Lutz
ベルティナ:レア・ドリュッケール Léa Drucker
エゲルマン:ノラ・ハムザウィ Nora Hamzawi
エゴン・シーレの幻の傑作「ひまわり」の競売をめぐる実話の映画化。一流競売人の巧妙な駆け引きや、アートビジネス界の舞台裏を見事な緊張感をもって描いている。
アンドレは、大手オークションハウスで一目置かれる敏腕の競売人。手段を問わず絵を少しでも高く売ることに人生をかけている。そんなある日、エゲルマンという女性弁護士からエゴン・シーレ作と思われる絵画の鑑定依頼を受ける。地方の工業都市で働く若い夜勤労働者の家に飾られていた絵だ。アンドレは、美術の目利きである元妻のベルティナに相談するが、シーレの作品はここ最近、贋作しか出ていないという。念のためその青年の家に行ってみると、それは紛れもない本物だった。その絵はナチスによって奪われ行方不明になっていたシーレの代表作だった。途方もない発見で有頂天になったアンドレは、絵の価格を吊り上げようと大物鑑定家に見てもらうが、状態が悪いと断定されてしまう。だが、そこにはオークションの世界の深い陰謀が渦巻いていた……。
原題は「Le Tableau volé(盗まれた絵)」。監督・脚本はパスカル・ボニゼール。ジャック・リヴェット作品などの脚本や、『華麗なるアリバイ』の監督として知られる巧みなストーリーテラーで、知的で緻密な筋運びと、俳優陣の絶妙なキャスティングが効果をあげている。
【シネマひとりごと】
1987年、当時の美術品オークション史上最高額の58億円で日本の企業がゴッホの「ひまわり」を落札した。バブル景気が最高潮だった時代で、高額な絵を一目見ようと、この企業の本社ビルでの観覧に連日長蛇の列ができた。筆者もその列に並んだ覚えがある。ところが一昨年、この「ひまわり」がナチスドイツによって略奪されたものだと、元の持ち主であるユダヤ系の遺族たちから、絵の返還ないし賠償金請求の提訴があった(今年になって訴訟取り下げとなった)。一方、同様にナチスに奪われたという本作のエゴン・シーレ作「ひまわり」は、競売前に遺族の了承のもと出品され、その売り上げは遺族に分配されている。
「ひまわり」は何といってもゴッホ作が有名だが、クリムトやシーレもゴッホに影響を受けて描いた。ゴッホに比べると、クリムトは自身の代表作「接吻」をそのままヒマワリに変えたような独特の構図。対してエゴン・シーレの「ひまわり」は、太陽を浴びて生き生きとしたイメージのヒマワリを、どうやったらこんなに陰気くさく描けるものかと感心してしまう。朽ち果てた死の気配が漂う「ひまわり」である。これが、70年近くも一般住居に無造作に飾られていたというのだから驚きだ。第二次世界大戦中、ユダヤ系の裕福な絵画収集家らが所有する絵が数万点以上ナチスに奪われ、そのほとんどが行方不明だという。本作の「ひまわり」同様、まだ埋もれている名作がその辺の民家にあるかもしれない。さてシーレの「ひまわり」の落札額はいかに?巨額が動くオークションの臨場感もスリリングで、シーレの実物を見てみたくなる映画だ。