映画『タンゴの後で』
2024 © LES FILMS DE MINA / STUDIO CANAL / MOTEUR S’IL VOUS PLAIT / FIN AOUT
監督:ジェシカ・パルー Jessica Palud
マリア・シュナイダー:アナマリア・ヴァルトロメイ Anamaria Vartolomei
マーロン・ブランド:マット・ディロン Matt Dillon
ベルナルド・ベルトルッチ:ジュゼッペ・マッジョ Giuseppe Maggio
2025年9月5日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開
配給:トランスフォーマー
[公式HP] https://transformer.co.jp/m/afterthetango/
1972年に公開され世界中で大きな話題となったベルナルド・ベルトルッチ監督の傑作『ラストタンゴ・イン・パリ』。そのヒロインを演じたマリア・シュナイダーが、いかに屈辱的な場面を撮影されてのちに苦しむことになったか、怒りをもって描かれている。
かけだし女優の19歳のマリアは、気鋭の若手監督ベルトルッチの目にとまり、新作『ラストタンゴ・イン・パリ』の主役に抜擢される。相手役は伝説の名優マーロン・ブランド。全裸で演じる場面にも臆することなく応じたマリアだが、あるシーンで脚本にはない、性的に過激な場面を無理矢理撮影される。彼女はあまりのショックと怒りにかられるが、映画の大評判で一躍トップスターになる。だが、その成功の陰で娼婦のような扱いを受けたり、女性からも冷たい視線を浴び、つねに性的なイメージで見られることに苦しむ。やがてマリアは薬物中毒になり、次第に精神のバランスを崩してゆく……。
『あのこと』でセザール賞有望若手女優賞を受賞したアナマリア・ヴァルトロメイがマリアを、米人気俳優マット・ディロンがマーロン・ブランドを演じている。女性監督ジェシカ・パルーが、マリア・シュナイダーの伝記『あなたの名はマリア・シュナイダー 「悲劇の女優」の素顔』をもとに映画化、男性優位の映画界の内幕を暴く衝撃作である。
【シネマひとりごと】
『ラストタンゴ・イン・パリ』はパリのビラケム橋の美しいショットから始まる。二階建てのこの橋は上部をメトロが走る独特の建築様式で、そのフォトジェニックな佇まいから、数多くの映画の撮影場所となった。ルイ・マルの『死刑台のエレベーター』、ヴィム・ヴェンダースの『アメリカの友人』、近年ではクリストファー・ノーランの『インセプション』や、なんとキムタク主演の『グランメゾン・パリ』にまで登場しているようだ。「気がついたらパリにいたんです」という岸惠子さんがパリで一番好きな場所もここだという。ビラケム橋の下、マーロン・ブランドの横を毛皮を纏ったマリア・シュナイダーが通り過ぎる名場面は『タンゴの後で』にも再現されたが、本家の極めてアーティスティックな画面には遠く及ばない。だがこの「芸術性」にこだわりすぎるベルトルッチの悪癖が、シュナイダーが生涯赦すことがなかった、例のバターを用いた性描写にまで影響を及ぼしている。この場面は、ベルトルッチとブランドが二人だけで相談して決め、シュナイダーには一切知らせていなかった。このだまし討ちのような撮影への弁解として、ベルトルッチは「女優ではない一人の女の子としての反応が見たかった」と言うが、これは現在の#Me Too運動の流れからは大問題だ。P・ボズワース著『マーロン・ブランド』によれば、ベルトルッチ自身もこの映画で何を描きたいのかよく分かっていないようだったとブランドは語っている。その問題場面の撮影後、ブランドがシュナイダーを慰めようとして、「たかが映画じゃないか」と彼女に耳打ちするが、この言葉はむしろ映画に夢中で映画のことしか考えないベルトルッチに言うべきだったのかもしれない。