2018年3月号 『ハッピーエンド』
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『ハッピーエンド』
+ Réalisateur Michael Haneke
+ Georges Jean-Louis Trintignant
+ Anne Isabelle Huppert
+ Thomas Mathieu Kassovitz
2018年3月3日(土)より角川シネマ有楽町ほか全国順次公開
配給:ロングライド
公式HP : http://www.longride.jp/happyend/
『白いリボン』『愛、アムール』と、過去にカンヌ国際映画祭のパルムドールを二度受賞したミヒャエル・ハネケ監督の最新作。昨年亡くなったエマニュエル・リヴァ主演の、老夫婦の愛情と悲哀を描いた『愛、アムール』に続き、ジャン=ルイ・トランティニャンとイザベル・ユペールが再び父と娘を演じ、歪んだ家族の物語を淡々と、しかし残酷に描いた衝撃作である。
フランス北部、カレー。建設会社を経営するローラン一家は裕福なブルジョワで、引退した家長のジョルジュ以下、娘アンヌ、息子トマが共に大邸宅に暮らしている。ところが建設現場で事故のトラブルが発生し、ジョルジュの後を継いで会社をきりもりするアンヌは事故の対応に追われる。また、トマの前妻が薬物中毒で入院し、離れて暮らしていた12歳の娘エヴをトマが引き取ることになる。エヴはある秘密を抱えたまま、ローラン家で新しい暮らしを始めることになるのだが……。
人間の罪悪のさまざまな形を描き出し、観客の心に冷たい戦慄をつきつける、鬼才ハネケの究極のハッピーエンド。
【シネマひとりごと】
ハネケ監督は、「今回は良い映画ではなく、不快にさせる映画を作りたい」と言ったそうだ……あなたの映画で愉快にさせる作品ってありましたっけ?とツッコミたくなるが、パルムドールを受賞した前作『愛、アムール』と比べて、ということなのだろう。
ハネケが最初に世に注目されたのは『ファニーゲーム』(1997)で、この作品がカンヌ映画祭に出品された際、審査員のナンニ・モレッティ監督は激怒し、上映後は観客からブーイングがあがった(一部に「ブラボー!」という声もあったそうだが)。これに対し、ハネケ監督は、観客が激怒しなければならないのは自分自身に対してであり、席を立たずに、エスカレートしていく暴力を最後まで見物しておいて文句を言うのはお笑い種、と言い放った。作品の残虐性と同時に、かつて映画で使われたことのなかった斬新な(少々ずるい)手法も賛否両論を呼んだ。『ファニーゲーム』で話題となった、映像の中の映像=ビデオ映像は、『隠された記憶』でも効果的に使われ、本作『ハッピーエンド』でも、冒頭からラストまで折りに触れ挿入されている。この映像が、『リング』や『ブレアウィッチ・プロジェクト』のビデオ映像ほど不気味ではないにせよ、ある種の不穏さを醸し出し、落ち着かない気持ちにさせるのだ。
ハネケの映画を見て結末が良く分からなかった、と思ったら監督の思うつぼ。ハネケ監督は観客それぞれに結末を思い描く自由を与えているのであり、種明かしは絶対にしないと言う。いやそもそも明かす種があるかどうかも疑問だが、初めから終わりまで一瞬のたゆみもなく観客の興味を引き続ける演出は、まさに巨匠の技というべきだろう。そして極めつけは『ハッピーエンド』というタイトルだ。この堂々たる命名には恐れ入りましたと言わざるを得ない。人間の本性をあぶりだし、抉ったまま放置するハネケ流「ハッピーエンド」を是非皆さんにもお確かめいただきたい。
◇初出=『ふらんす』2018年3月号
*『ふらんす』2018年3月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。