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中条志穂「イチ推しフランス映画」

2017年8月号 『エル ELLE』



© 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

『エル ELLE』

2017年8月25日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国 順次公開

 

+ Réalisateur  Paul Verhoeven

+ Michèle  Isabelle Huppert

+ Patrick  Laurent Lafitte

+ Anna  Anne Consigny


配給 : ギャガ

公式HP : http://gaga.ne.jp/elle/



 オランダ出身の鬼才、『氷の微笑』のポール・ヴァーホーヴェン監督がイザベル・ユペールを主演に、ショッキングな描写をふんだんにちりばめた異色のサスペンス。

 ゲーム会社を経営する女社長のミシェルは、ある日、自宅で覆面の男に襲われる。だが警察と関わりたくないミシェルは通報せず、翌日もいつも通りに出社し、淡々と仕事をこなす。ところが今度は、ミシェルの会社のパソコン全部に、彼女の卑猥な合成動画が送信される。厳しい社長として社員から煙たがられていたミシェルは、襲撃事件も内部の者の犯行ではないかと疑う。そんな折、39 年前に大量殺人の罪で終身刑となったミシェルの父親が仮釈放の申請をする。忘れられていた事件に注目が集まり、世間の目は凶悪犯の娘であるミシェルにも向けられる。そして覆面の男が再びミシェルを襲う……。道徳や常識をものともしないヒロインをイザベル・ユペールがふてぶてしくも颯爽と演じきり、セザール賞女優賞を獲得、米国のアカデミー主演女優賞にもノミネートされた。

 

【シネマひとりごと】

 1994 年に世界的に大ヒットした『氷の微笑』は、日本でも大ブームを巻き起こし、ヴァーホーヴェン監督の名を世に知らしめた。主演は当時、まだ売り出し中だった女優シャロン・ストーン。キム・ノヴァクのようなクール・ビューティの雰囲気を漂わせ、彼女が足を組み替える映像に、中が映った、映らないの大論争が巻き起こり(オーバーか?)、ストーンは一躍スターとなった。何を考えているのか読めないアブナイ美女をこよなく愛するヴァーホーヴェン監督も、はや78 歳。今回は舞台をフランスに移し、いまフランス女優で最も予測不可能な演技をスクリーンに叩きつけるイザベル・ユペールを主演に迎えた。原作はフィリップ・ジャンの小説『エルELLE』(原題Oh…、邦訳早川書房刊)。ジャンは『ベティ・ブルー / 愛と激情の日々』や『愛の犯罪者』の原作を書いた官能サスペンスの第一人者だ。面白くないわけがない。ただし、いかにも喜んで人を殺しそうなベアトリス・ダルの主演は当たり前すぎてNG だろう。有名女優がそろって出演拒否したという、このアブノーマルな役をユペールが受けて立ち、『ピアニスト』や『ジョルジュ・バタイユ ママン』で見せた女優根性を発揮し、平然と、こけおどし一歩手前の演技で仰天させてくれる。過激・衝撃を映画作りのモットーとする監督の期待をはるかに超えた怪演ぶりだ。

 

◇初出=『ふらんす』2017年8月号

◎『ふらんす』2017年8月号に抜粋対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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