2017年12月号 『ルージュの手紙』
© CURIOSA FILMS – VERSUS PRODUCTION – France 3 CINEMA This is the film production's copyright line.
『ルージュの手紙』
+ Réalisateur Martin Provost
+ Claire Catherine Frot
+ Béatrice Catherine Deneuve
+ Paul Olivier Gourmet
2017年12月9日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
配給:キノフィルムズ/木下グループ
公式HP : http://rouge-letter.com/
カトリーヌ・ドヌーヴとカトリーヌ・フロ、フランスの二大ベテラン女優がまったく性格の異なる親子に扮し、衝突しながらも互いを理解してゆく爽やかな感動作である。
助産婦として働く中年女性クレールは、シングルマザーだが堅実に人生を歩み、一人息子を立派に育て上げたばかり。そんな彼女のもとに、30年前に姿を消した継母(ままはは)のベアトリスから突然連絡がくる。自由奔放で酒とギャンブルが大好きなベアトリスは、クレールとは正反対の性格で、当然うまが合わない。ベアトリスの勝手な行動に振り回され反発するクレールだが、継母が自由に人生を謳歌するさまを見て、真面目一徹の自分に足りないものを感じる。やがて二人は互いの良さを認めはじめるのだが、病に冒されたベアトリスに残された時間は限られていた……。『セラフィーヌの庭』や『ヴィオレット ある作家の肖像』で、女性の内面のドラマを丹念に描写したマルタン・プロヴォ監督が、資質の全く異なる二人の女性が互いに結びあう絆を、ユーモラスかつ軽妙に描いている。原題はSage femme(助産婦)。
【シネマひとりごと】
カトリーヌ・ドヌーヴを見ると、優雅に見えるのに意外にもガテン系の、『ベルサイユのばら』の漫画家・池田理代子先生を思い出してしまう。ドヌーヴはゴージャス&エレガントの代名詞的女優であるにもかかわらず、フランソワ・オゾン監督の『しあわせの雨傘』では、上下エンジ色のジャージ体操服という衝撃的な姿になり、ヒッチハイクしたトラックの運転手に色目を使ったりしていた。本作でも「トラック運転手の恋人がいたら地の果てまで行くわ」というセリフがあり、彼女の体に流れるガテン系の血を見破った二人の監督の慧眼に膝を打つ。さらに本作では、ドヌーヴ御大自ら大型トラックのハンドルを握るシーンも。うーんカッコいい! ヒョウ柄を着ても大阪のおばちゃんやピコ太郎にはならない着こなしの術も見習いたい。ドヌーヴはもともと役柄に関しては冒険好きらしく、最近ではジャコ・ヴァン・ドルマル監督作の『神様メール』で、ゴリラとベッドインするというトンデモない役もこなした。いい意味で、年を重ねてもう怖いものなしのやりたい放題である。昨年話題となったミステリー小説Une fille et un flingue(美女と拳銃)には、カトリーヌ・ドヌーヴ本人が登場、なんと銀行強盗の役だが、これには本人の許可があったはず。大女優の枠を破り、近年はすすんで若い監督たちと映画を作っている彼女のこと、強盗役の打診があっても本当に引き受けそうだ。『ルージュの手紙』では、カトリーヌ・フロ扮する、髪の毛をひっつめた、化粧っけのない義理の娘に、「ダサい、イケてない、男はいるの?」と言い放つがなぜかイヤミではない。これぞ大女優、他の追随を許さぬさすがの貫禄である。
◇初出=『ふらんす』2017年12月号
*『ふらんす』2017年12月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。