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中条志穂「イチ推しフランス映画」

2017年9月号 『セザンヌと過ごした時間』



© 2016 – G FILMS –PATHE – ORANGE STUDIO – FRANCE 2 CINEMA – UMEDIA – ALTER FILMS

『セザンヌと過ごした時間』
2017年9月2日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開

 + Réalisatrice  Danièle Thompson

 + Émile Zola  Guillaume Canet

 + Paul Cézanne  Guillaume Gallienne

 + Alexandrine  Alice Pol


配給 : セテラ・インターナショナル

公式HP : http://www.cetera.co.jp/cezanne/


 〈近代絵画の父〉といわれる画家セザンヌと小説家ゾラの友情と確執を描いた胸に迫る実話である。

 1850 年代の南仏エクス=アン=プロヴァンス。イタリア系の移民で父親を早く亡くしたエミール・ゾラは、級友からいじめられていたが、裕福な銀行家の息子ポール・セザンヌが彼をかばい、二人の親交が始まる。やがて、ゾラは詩人をめざしてパリへ行き、セザンヌも画家を志しゾラの後を追ってパリへ。だが、セザンヌはパリの生活になじめず、サロンにも落選。しかも、父親から仕送りを打ち切られて生活も苦しくなり、結局パリを離れ、エクスにひきこもって孤独に絵を描き続ける。一方、ゾラは『居酒屋』『ナナ』とベストセラーが続き、富と名声を得る。セザンヌはそんなゾラを俗物と感じるが、ゾラはセザンヌに金銭的な援助を行い、絵を描くようにと励ます。だが、ゾラが画家を主人公にした小説『制作』を発表すると、セザンヌは自分をモデルにしたと腹を立て、二人の友情に決定的な亀裂が入る。それから2 年、ついにセザンヌがゾラのもとを再訪する……。女性監督ダニエル・トンプソンが、南仏の美しい自然を背景に、二人の芸術家の友情の真実について新たな物語を紡ぎだしている。

 

【シネマひとりごと】

 この映画に、セザンヌ、マネ、ピサロ、モネ、ルノワール、ベルト・モリゾなど、印象派の画家たちが川辺でピクニックを楽しむ様子が出てくる。まるで、ジャン・ルノワールの映画『ピクニック』の一場面のように牧歌的な光景で、女たちが裸になって水浴したり、なんと奔放で自由な時代だったことだろう。この、開放的で陽光あふれる戸外でのピクニックと対照的に、ゾラの家は立派な家具に囲まれてはいるが、穴倉のように薄暗く陰鬱である。そこで繰り広げられるセザンヌのゾラに対する皮肉めいた詰問調のセリフや、妙に意地の悪い態度から、深い友情が裏返しになった複雑な嫉妬や反撥の感情が伝わってくる。

 コメディ・フランセーズ出身の名優ギヨーム・ガリエンヌが演じるセザンヌはいささか大げさな印象を醸しだすが、セザンヌ本人がかなり破天荒な性格だったことは、彼がモデルによく言ったとされる有名な「動くな、りんごは動かないだろ!」というセリフに表れている。サロンに落選した後、「いまにりんご一つでパリじゅうを驚かせてみせる」と語ったほどの野心家でもあるが、中学時代、級友のいじめからゾラを救ってお礼にもらったりんごをひたすら描き続けたという純情も、セザンヌの性格の一面である。映画のラストで彼のもう一つのメインモチーフである南仏の「サント・ヴィクトワール山」が映し出される。美しい山の映像が徐々に絵画に変貌する特殊効果だが、そこにセザンヌの絵画の普遍的な説得力が巧みに表現されていると思う。

 

◇初出=『ふらんす』2017年9月号

◎『ふらんす』2017年9月号に抜粋対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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