白水社のwebマガジン

MENU

「アクチュアリテ 社会」荻野雅代(トリコロル・パリ)

フランス語で楽しむ日本人作家の小説

 読書の秋です。勉強を兼ねてフランス語の小説を読んでみようかな、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。有名なフランス人作家の原語版にトライするのも良いですが、私が個人的にお勧めしたいのが、フランス語に翻訳された日本人作家の小説。文化や習慣をよく知っているので、日本人が書く日本を舞台にした物語は単語やフレーズの意味が完璧に分からなくてもある程度スムーズに読み進められる気がします。

 古くは清少納言、近代の吉川英治、谷崎潤一郎、川端康成、三島由紀夫など、今もフランスで読み続けられる日本の名作は多数ありますが、読みやすさを考えると、カジュアルな口語体の多い今の作品の方がベターでしょう。現代作家の中でダントツの人気を誇る村上春樹はフランスにも熱心なファンが多く、ほとんどの作品の仏語版が見つかります。ミステリーの分野では東野圭吾の小説が多く翻訳されていますが、宮部みゆきや赤川次郎は意外にもほとんど出版されていません。伊坂幸太郎の作品も少ないですが、『マリアビートル』がアメリカで映画化され、これから認知度が上がりそうです。


ある書店の日本文学コーナー。三島由紀夫、井上靖の他、村上春樹や浅田次郎など現代の人気作家の作品も。

 ここ数年、根強い人気を集めるのが小川糸で、『食堂かたつむり』と『ツバキ文具店』は、あるネット書店のレビュー数がそれぞれ1000を超えています。フランスでは近年Romans feel-goodと呼ばれる「癒し系」にあたるジャンルがブームになっていて、彼女はその代表格の一人と言えるでしょう。他には、青山美智子の『お探し物は図書館まで』や、川口俊和の『コーヒーが冷めないうちに』も同ジャンルの人気作です。ドリアン助川の『あん』のような食をテーマにした作品も好まれやすく、平松洋子の『サンドウィッチは銀座で』はフランスで知名度の高い谷口ジローが共著ということもあり人気です。

 …と、いくつか紹介したものの、日本でこうした仏語版を見つけるのは困難ですし、日本発送OKの書店(lireka.com)を利用するにも、送料や関税を考えると気軽には買えませんよね。そんな方にはamazon.frで試し読みをする方法をお勧めします。Livres→Littérature japonaiseの順でカテゴリーに行くと日本人作家の作品が表示されるので、Feuilleter(試し読み)の印があるものを探して冒頭の数ページを読んでみましょう。また、フランス語タイトルと原題を見比べるだけでも楽しいですよ。さて、最後にクイズです。「Les délices de Tokyo」は前述したどの作品でしょうか?

◇初出=『ふらんす』2022年10月号

タグ

バックナンバー

著者略歴

  1. 荻野雅代(おぎの・まさよ)(トリコロル・パリ)

    パリとフランスの情報サイト「トリコロル・パリ」を運営。著書『おしゃべりがはずむ フランスの魔法のフレーズ』

フランス関連情報

雑誌「ふらんす」最新号

ふらんす 2024年5月号

ふらんす 2024年5月号

詳しくはこちら 定期購読のご案内

ランキング

閉じる