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「アクチュアリテ 社会」荻野雅代(トリコロル・パリ)

コロナ禍を経て変わること、変わらないこと

 フランスで初のロックダウンが実施されたのが、昨年3月17日でした。今、この原稿を書いている2月中旬の時点では、新たなロックダウンはなんとか免れてはいるものの、夕方6時~翌朝6時までの夜間の外出禁止、カフェやレストラン、劇場、映画館、百貨店や大規模なショッピングセンターなどが閉鎖され、感染対策を心がけながら日々暮らしている状況です。世界が一変するような未曾有の事態に見舞われ、フランスの日常にも大なり小なり様々な変化が訪れました。

 コロナ禍のフランスで最も変わったことといえば、やはり、マスクの着用です。以前はマスクをしている人は一人として見かけたことがなく、それこそ、私を訪ねて来た日本人の友人がマスクをしていたところ、いたる所で奇異の目を向けられるほど珍しいものでした。昨年夏に着用が段階的に義務付けられるまでは、マスク無しで外出する人もいましたが、現在はほとんどの人がきちんと着用している印象です。マスクの必要性が浸透してからは、多くのブランドやクリエイターが個性的なモチーフのマスクを提案するようになったのも驚きでした。かつて薬局ですら入手するのが難しかった不織布の使い捨てマスクも、今ではスーパーで買えるようになりました。

 ウェットティッシュもコロナ禍になって、一般的になったものの一つです。赤ちゃんの手口拭き用は以前もよく見かけましたが、最近では除菌効果のあるポケットタイプのものが簡単に手に入るようになり助かっています。コロナ禍前にも売られていた除菌ジェルも、無香料や香り付き、ポケットタイプから家庭で使えるポンプタイプのものまで、サイズや種類が増えました。個人的には、マスクや除菌、消毒関連の商品はコロナが落ち着いてからも売り続けて欲しいと願っていますが、普段の生活に戻ったら、少しずつ消えていくような気もします。

 生活習慣で言うと、フランスならではの挨拶の仕方にも影響が表れました。頬と頬を合わせる「ビズ」や握手を避ける場合が多くなり、代わりに肘でタッチする人たちもいますが、ほとんどの人が目を合わせて気まずそうにしているのが印象的です。フランスの伝統文化とも言えるビズの習慣がコロナ禍を経て絶滅するとは思い難いですが、地域によっては4回頬を合わせていたところ、2回に減ってしまうということはあるかもしれません。リモートワークが増え、カフェやレストランの閉鎖も長引き、同僚や友人、家族たちと会うことすらままならない厳しい状況ではありますが、たとえ表面的な部分は変わっても、人と集い、ふれあい、おしゃべりを楽しむことが大好きなフランス人らしさは、コロナ禍を経てもそのままであるような気がします。

◇初出=『ふらんす』2021年4月号

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著者略歴

  1. 荻野雅代(おぎの・まさよ)(トリコロル・パリ)

    パリとフランスの情報サイト「トリコロル・パリ」を運営。著書『おしゃべりがはずむ フランスの魔法のフレーズ』

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