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「アクチュアリテ 社会」荻野雅代(トリコロル・パリ)

日本にいながらにしてヴァカンス気分を味わおう


『なまいきシャルロット』のパンフレットと主題歌のレコード。夏になると見返したくなる大好きな作品。

 フランス映画を語る上で外せない一大ジャンルのひとつに、ヴァカンス映画(Films de vacances)があります。日本で夏休み映画や正月映画と言うと、休暇中に上映される目玉作品を指しますが、ここで言うヴァカンス映画は、夏休みをテーマにした作品のこと。見知らぬ土地で過ごす数週間は、解放感あふれる非日常そのもので、新たな出会いにときめいたり、一緒に旅する家族や友人とケンカしたりとハプニングの宝庫です。

 まずは海辺が舞台のヴァカンス映画から。『ぼくの伯父さんの休暇』(1953)はジャック・タチが監督・主演を務める人気シリーズで、どこにいても、不思議と騒動を起こしてしまうユロ伯父さんのとぼけた魅力は海辺の町でも健在です。パトリス・ルコント監督の『レ・ブロンゼ』(1978)はクラブメッドに来た若者グループが主役のコメディ映画。あまりの人気に、スキー場を舞台にした続編が翌年作られるほど。サガンの小説が原作の『悲しみよこんにちは』(1958)は英語の作品ですが、楽しげなのに、どこか気だるいヴァカンス独特の空気感が密封された名作です。目が覚めるような、コート・ダジュールの海の色が印象的!

 ひと夏の出会いや別れを通して、主人公の成長を描く作品も多いです。『なまいきシャルロット』(1985)では、片田舎で退屈な夏休みを過ごす少女の思春期特有の不安定で鬱屈とした気持ちや、偶然出会った同い年の天才ピアニストに対する憧れを、当時14歳で初主演のシャルロット・ゲンズブールが瑞々しく演じていました。美しい田舎の田園風景を楽しめる作品として、『マルセルの夏』(1990)や『フランスの思い出』(1987)もおすすめです。

 ヴァカンス映画の名手エリック・ロメールの作品はどれも最高! 『緑の光線』(1986)や『海辺のポーリーヌ』(1983)、『夏物語』(1996)は、リアルな会話と共に人間関係が淡々と描かれていて、ヴァカンス中のフランス人の様子がよく分かります。ロメールの後継者的存在と個人的に注目しているのがギヨーム・ブラック監督。『女っ気なし』(2012)や『みんなのヴァカンス』(2020)に続く、ヴァカンス映画をこれからもどんどん撮り続けてほしいです。

◇初出=『ふらんす』2023年7月号

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著者略歴

  1. 荻野雅代(おぎの・まさよ)(トリコロル・パリ)

    パリとフランスの情報サイト「トリコロル・パリ」を運営。著書『おしゃべりがはずむ フランスの魔法のフレーズ』

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