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「アクチュアリテ 社会」荻野雅代(トリコロル・パリ)

フランスの9月は新学期・新年度シーズン

 さぁ、9月になりました。フランスは学校も会社も、新しい1年が始まります。長いバカンスの間にたっぷりと充電をし終え、すっかり日に焼けたフランス人の顔には、心機一転、勉強や仕事に励もうというやる気が満ち溢れています。とはいえ、日本の4月に比べると、フランスの新年度はフレッシュ感がとても希薄。いわゆる新卒入社や新入社員という言葉やコンセプトはなく、彼らをターゲットにしたスーツの売り出しなどもありません。学校はというと、幼稚園にしろ、小・中学校、高校にしろ、フランスには入園・入学式を行う習慣が一切ありません(ちなみに卒業式のようなセレモニーもありません)。そのため、なんだかあっさりと通常通りに学校が始まってしまう印象です。新入生に限り、登校初日だけは親が付き添って登校し、各教室で先生から説明を受ける時間が設けられる学校もありますが、子供も大人も普段着で、いつもとあまり変わらない雰囲気です。さみしい気もしますが、式のために服を新調したり、美容院に行ったりする手間とお金をかけなくて済むという点では、良いのかもしれません。

 新学期シーズンはフランス語で「ラントレRentrée」と呼ばれ、8月も半ばになるといたるところでこの文字を目にするようになります。スーパーや文房具店が特設したラントレのコーナーには、ノートや筆記具、定規、ファイルなど多種多様な文房具がずらりと並びます。学校から事前に配布される、新学期に必要な文房具のリストとにらめっこしながら、あれもこれもと買い忘れがないよう、棚から棚へと駆けまわる親子連れの姿はこの時期ならではの風物詩。ノートのサイズや罫線の幅、鉛筆の濃さ、クリアファイルのページ数、ボールペンの色など、こと細かく指定されており、お目当てのものが同じ店で見つからず、数軒はしごをせざるを得ないことも。心安らかに新学期を迎えるべく、なるべく早めに余裕を持って買い揃える人が多いのも納得です。フランスのランドセルともいえる「カルターブルCartable」も多種多様な色や絵柄が揃い、売り場はとてもにぎやか。日本のような革製の決まった形はなく、子供たちがお気に入りのものを選びます。小さな身体に新品の大きなカルターブルを背負って歩く小学1年生たちの姿に、新しい1年の始まりを感じます。


色も柄もさまざまなカルターブル

◇初出=『ふらんす』2020年9月号

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著者略歴

  1. 荻野雅代(おぎの・まさよ)(トリコロル・パリ)

    パリとフランスの情報サイト「トリコロル・パリ」を運営。著書『おしゃべりがはずむ フランスの魔法のフレーズ』

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