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「アクチュアリテ 社会」荻野雅代(トリコロル・パリ)

フランス人と外国語学習

 4月を迎えて、日本では新年度が始まりました。心機一転、何か新しいことにチャレンジしてみたくなる季節でもありますが、今、この『ふらんす』を手に取っている人の中には、フランス語の勉強を始めたばかりの人もいらっしゃるかもしれません。日本人にとって、語学学習は読書や映画鑑賞、ジョギング、ガーデニングなどと並ぶごく一般的な趣味のひとつですが、フランスでは意外にも、外国語学習を趣味として捉える人は少なく、自分のペースで楽しみながら学ぼうという意識は低いと言えるかもしれません。もちろん、小中高を通じて英語の授業が義務付けられ、中学からはスペイン語などの第2外国語も加わるため、ほとんどの人が学校の必須科目として外国語学習を経験しますが、英語や外国語への苦手意識は強いです。仕事のために外国語を学ぶ場合は、きちんとレッスンを受ける人が多く、実用性の低い言語を独学で楽しむという感覚は薄いようです。とはいえ、日本語はフランス人が学ぶ外国語の中でも関心が高い言語のひとつで、現在2万人近い日本語学習者がおり、ヨーロッパの中ではトップ。年々右肩上がりで増えていて、若い世代におけるマンガやアニメといった日本カルチャーの人気の根強さがうかがえます。

 日本では、当たり前のようにテレビやラジオの語学講座があり、それに付随するテキストも毎月発行されていますが、フランスでは外国語学習に特化した全国放送の番組は、少なくとも私が知る限りありません。語学書についても同じく、新刊が次々に発売され、学習方法や切り口の異なるバラエティに富んだ本が数多く存在する日本に比べて、フランスは数も種類も圧倒的に少なめ。これは、フランスに限らず、他の国々もきっと似たような状況で、外国語学習の環境がこれほどまでに充実し、長い伝統を持つ日本が特別な存在なのでしょう。テレビやラジオでは、英語やフランス語だけでなく、アジアやヨーロッパ各国の言語、そして白水社が刊行するニューエクスプレスシリーズにいたっては、アムハラ語やカタルーニャ語、バスク語、ロマ語、リトアニア語、アイルランド語など選択肢も幅広く、誰もが気軽に外国語を学ぶことができる日本はつくづくすごいなぁと感心します。言葉を学ぶことで、その国の習慣や文化をより深く知りたいと願う好奇心や探究心を、常に持ち続けていられたら素敵ですよね。


短いフレーズに特化した拙著『とってもナチュラル ふだんのひとことフランス語』。細かなニーズに応えた語学書は日本ならでは

◇初出=『ふらんす』2022年4月号

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著者略歴

  1. 荻野雅代(おぎの・まさよ)(トリコロル・パリ)

    パリとフランスの情報サイト「トリコロル・パリ」を運営。著書『おしゃべりがはずむ フランスの魔法のフレーズ』

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