フランスの引っ越しにまつわるエトセトラ
パリのアパルトマン最上階の窓にはしごをかけて、荷物を運び入れるフランスならではの引越し風景
日本の3月は、卒業や転勤といったさまざまな別れがある季節であり、最も引っ越しする人が多い月でもあります。フランスの場合は新年度が9月のため、年度末にあたる7~8月のバカンス時期がおのずと引っ越しシーズンとなり、どちらの国も引っ越しするタイミングはよく似ていると言えます。ただ、フランスに長年暮らしてみて感じるのは、日本に比べて一般的に引っ越しをする人が多いこと。例えば日本では、子どもの頃過ごした家に両親や兄弟が暮らし続ける、いわゆる実家が残っていることが多い印象ですが、フランスでは、ライフスタイルやライフステージに合わせて住む場所や居住スペースを変える習慣があるため、生まれ故郷に親が住んでいないという場合も少なくありません。また、今住んでいるアパルトマンを変えたいと常日頃から話している人も多い気がします。
ネットで調べてみたところ、生涯で引っ越しをする回数が平均3.12回(総産研・2007年)という日本人に対して、フランス人は平均4.6回(OpinionWay・2010年)というデータが見つかりました。引っ越しにかかる費用の平均は約4700€で、35歳以下は約2800€、50歳以上は約7200€と、年齢によってかなり大きく異なります。特に若い世代はバンなどをレンタルしてなるべく自分たちで運ぶ人がほとんどで、私も何度か、友人の引っ越しの手伝いに行った経験があります。
古い建築が残るフランスでは、エレベーターがなかったり、通路が狭かったりするアパルトマンが多いため、プロの引っ越し業者がはしご車を使って家具を窓から運び入れる光景をよく見かけます。ピアノがはしごにくくり付けられてスーッと上がっていくところを見たことがありますが、よく落ちないなぁと感心したものです。
引っ越しを終えて少し落ち着いたタイミングで、友人たちを新居に招いてクレマイエール(crémaillère)と呼ばれるパーティーを開く文化があります。クレマイエールとは、暖炉に鍋を吊るための自在鉤を指し、新しい家の炉に火を入れることができたことを祝うところから、そう呼ばれるようになりました。日本の引っ越し蕎麦のように、決まった料理を食べる習慣はフランスにはないようです。