ヴァカンスに欠かせない夏のヒットソング
ウィキペディアでチューブ・ドゥ・レテとして紹介されていた「ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ」と「サラ・ペルケ・ティ・アモ」。
「チューブ・ドゥ・レテ(tube de l’été)」は、フランスのヴァカンスになくてはならない夏の風物詩のひとつ。その年の夏はどこへ行っても耳にするほど流行した曲のことで、チューブとは一度聴いたら頭から離れないポップソングを表す俗語です。元々、エジソン式の蓄音機「フォノグラフ」が、溝を付けた円筒(チューブ)を回転させて音を奏でたところから、フランスでは曲のことをチューブと呼んでいましたが、1950年代半ば、音楽家としても活動した作家のボリス・ヴィアンがフィリップス・レコードのアート・ディレクターを務めていた時に、ヒットはしているけれど歌詞の中身が管のように空洞だ、という彼らしい皮肉を加えて使い始めたという逸話が残っています。直訳すると「夏の管」と意味不明ですが、多くの家庭が余暇としての夏のヴァカンスを楽しめるようになった1960年代、ヒット曲を生み出すためのマーケティングとしてメディアによって広められ、その後定着しました。春、秋、冬のチューブという言い回しが存在しないのはこういう理由だったのかと、この機会に調べてみて納得しました。
ビーチやキャンプ場でのパーティーで踊れるノリの良い曲が定番で、歌詞はヴィアンが言うようにごくシンプル。耳に残るキャッチーなメロディが特徴です。フランスの曲に限らず、常夏を感じさせるラテンやトロピカル・ミュージックも多く、日本でもヒットした「ランバダ」や「マカレナ」なども典型的なチューブ・ドゥ・レテです。代表的な初代の夏のチューブとされているのが、1960年にダリダが歌った「日曜はダメよ」。ギリシャを舞台にした同名映画のメインテーマとして大ヒットしました。同じく、シルヴィー・ヴァルタンの「アイドルを探せ」、ジュヌヴィエーヴ・グラッドの「サントロペのお嬢さん」も映画から誕生した夏のヒット曲。セルジュ・ゲンズブールの「海、セックスそして太陽」はヒットを受けて、ビーチを舞台にした映画「レ・ブロンゼ」に採用されました。60〜70年代に流行した、クロード・フランソワのディスコソング「Belles ! Belles ! Belles !」、「Cette Année là」、「Alexandrie Alexandra」も外せません。ナイアガラの「L’Amour à la plage」やバンドレロの「Paris Latino」はフランス人誰もが知る夏の曲。ポルナレフの「愛の願い」、ジョー・ダッサンの「インディアン・サマー」、映画「ラ・ブーム」のテーマ「愛のファンタジー」といったスローダンスのための曲もあります。個人的には、夏の名残を感じながら聴くブリジット・バルドーの「ふたりの夏にさようなら」が好きです。