先輩からのおさがりを受け継ぐフランスの教科書
6èmeの歴史・地理の教科書。最近は教科書のデジタル化も進み、コンピューターやタブレットでも閲覧できる。
9月は新学年が始まる月。長い夏のバカンスを終えた子供たちの顔もどことなくリフレッシュしたように見えます。フランスの学校では入学式のようなセレモニーがないといった、日本と異なる点がいくつかありますが、教科書(manuel scolaire)もそのひとつ。日本では義務教育における教科書は国から無償で各生徒に配布され、その後も所有することができますが、フランスの場合は貸し出しが原則です。新学年になると、生徒たちは、いわゆる「先輩たちのおさがり」の教科書を受け取り、ひとつずつフィルムカバーをかけ、3学期の間大切に使用したのち学年末に学校に返却します。その際、破損している場合は生徒が買い取る必要がある(値段は各学校が定め、5€程度)ため、受け取った時にしっかりとチェックして、すでに状態が悪い場合は申告することが大切になります。紛失した場合ももちろん、お金を払うことになります。
考えてみれば、改訂されない限り同じ教科書を使い続けるのは全く問題ありませんし、予算やエコロジーの観点からも中古を受け継ぐのはとても良いシステムだと感じます。そもそも、この方法が可能なからくりとして、フランスの授業では教科書をさほど頻繁に使わないという事実があります。授業や宿題に教科書を用いるかどうかは各教師が自由に決めることができ、私の知る限りでは、プリントを教材として用いる場合が多く、少なくとも、教科書に沿って授業を進めるスタイルは日本よりも確実に稀と言えるでしょう。そのため、たとえ同じ学校の同学年であっても、先生によって学ぶ内容やペースが異なりますし、日本人が抱く教科書への愛着もフランスでは薄い気がします。
昨年10月5日、当時の教育相ガブリエル・アタルが発表した学校改革案「Choc des savoirs」のひとつに、教科書の認定制度(labellisation)の導入がありました。日本とポルトガルを例に挙げ、認証機関が教科書の品質を検定しラベルを新たに設けるというもので、この9月から、CP(小1)の国語と算数の教科書は認定証付きの使用が義務付けられています。今後は段階的にCE1(小2)から6ème(小6、フランスでは中学1年生にあたる)まで適用される予定ですが、出版社の編集の自由や教師の教育の自由を脅かす可能性も否めないという反対意見もあり、これからフランスの教科書がどのように変化していくのか、気になるところです。