フランスの大ヒット作『ファンファーレ!ふたつの音』
映画『ファンファーレ!ふたつの音』
©2024 - AGAT Films & Cie - France 2 Cinéma
監督:エマニュエル・クールコル Emmanuel Courcol
ティボー:バンジャマン・ラヴェルネ Benjamin Lavernhe
ジミー:ピエール・ロタン Pierre Lottin
サブリナ:サラ・スコ Sarah Suco
2025年9月19日(金)より新宿ピカデリー他にて全国順次公開
配給:松竹
[公式HP]
https://movies.shochiku.co.jp/enfanfare/
昨年フランスで公開され、260万人が観た大ヒット。幼いころに生き別れ、まったく違う境遇で育った兄弟が再会し、音楽を通じてその絆を確かめあう感動的な物語である。
ティボーは国際的に活躍するオーケストラ指揮者。だが白血病に冒され、骨髄移植をしなければ死んでしまう。妹ローズの骨髄が適合することに望みをかけたが、実はティボーは養子で、ローズとは血のつながりがなかった。しかし、ティボーにはジミーという生き別れになった弟がいた。ジミーはある労働者の養子として育ち、炭鉱町の給食工場で働きながら市民吹奏楽団でトロンボーンを吹いていた。このジミーからの骨髄移植の手術は成功し、ティボーは弟に感謝するとともに、彼の優れた音楽的才能を見抜き、それにふさわしい人生を送れるよう応援する。一方ジミーは、裕福な家庭で育った兄に劣等感と不公平感を抱きつつも、兄のような輝かしい人生を歩む夢を見始める。そんなとき、ジミーの働く工場が閉鎖され、吹奏楽団が解散の危機に見舞われるのだが……。
原題は「En Fanfare」(ブラスバンドで/賑やかに)。監督はエマニュエル・クールコル。弟ジミーを演じたピエール・ロタンは、クールコルの前作『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』にも出演し、現在人気急上昇中である。
【シネマひとりごと】
本作で主人公の弟ジミーを演じたピエール・ロタンは、いまフランスで最も人気のある若手俳優だ。整った顔立ちだが、どこか裏の顔がありそうなヤサグレ感とワイルドな雰囲気が漂う36歳。この歳でアディダスのジャージと、キャップの後ろ被りがこれほど似合う俳優はなかなかいない。このキャップ後ろ被りは彼のトレードマークともいうべきスタイルで、「Les Tuche(チュシュ一家)」という大人気コメディから始まっている。この映画は、チュシュ一家の常軌を逸した騒動が笑いを誘う風刺コメディで、フランスでは現在「5」まで出ている人気シリーズ。ロタンはその一家の、ゲイでラッパーの息子役で、しばらくそのチンピラ風のイメージが抜けなかった。だが「1」の公開から約15年がたち、いまやカメレオン俳優と呼ばれるほど飛躍的に才能が開花した。彼はさきごろ公開されたフランソワ・オゾン監督の『秋が来るとき』でも、ムショ帰りのヤクザ風の男を演じたが、年輪を重ねて少しくたびれた感じがなんともセクシーだった。さすがオゾン監督のお眼鏡にかなった俳優だ。同じくオゾンのお気に入り俳優ピエール・ニネにも通じる繊細さと、ニヒルな粗暴さが絶妙のバランスでブレンドされ、オゾン好みのジェンダーを超えた気質も持ち合わせている。オゾンの次作はなんとカミュの『異邦人』だが、その出演も決まっており、シェークスピアのような古典を演じてみたいと語るロタンの夢は実現に近づいているようだ。