ボレロ 永遠の旋律
映画『ボレロ 永遠の旋律』
2024年8月9日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ ほか全国順次公開
配給:ギャガ
[公式HP] https://gaga.ne.jp/bolero
監督:アンヌ・フォンテーヌ Anne Fontaine
ラヴェル:ラファエル・ペルソナ Raphaël Personnaz
シパ:ヴァンサン・ペレーズ Vincent Perez
イダ・ルビンシュタイン:ジャンヌ・バリバール Jeanne Balibar
モーリス・ラヴェルの名曲「ボレロ」はいかにして生まれたのか。その秘密と作曲家のミステリアスな人物像を、名曲の数々にのせて解き明かす映画。
1920年代のパリ。ラヴェルは有名な舞踏家のイダ・ルビンシュタインから新作バレエの楽曲を依頼される。だが、イダから完成を迫られ、曲作りのプレッシャーで精神的に追いつめられてゆく。そんなとき、ラヴェルは自宅の家政婦が好きだという流行歌をピアノで弾いてみる。その音楽に刺激を受けたラヴェルは、同じメロディを17回繰り返すという斬新な曲構成を思いつき、ようやく「ボレロ」は完成へと導かれる。彼はこの曲に、友人の姉への叶わぬ愛や、第一次大戦の悲痛な経験や、最愛の母の死など、さまざまな思いを込める。だが、イダが考案した振付はラヴェルのイメージとは全く異なる官能的なダンスだった。ラヴェルはイダと激しい口論を交わすが、「ボレロ」の初演は熱狂的な支持を集め大成功となる。まもなくイダとも和解するもの、「ボレロ」の成功の重圧はラヴェルの人生を大きく変えてしまう……。
『ドライ・クリーニング』のアンヌ・フォンテーヌ監督が、アラン・ドロンの再来とうたわれる美男俳優ラファエル・ペルソナを主演に、ジャンヌ・バリバール、エマニュエル・ドゥヴォス、ヴァンサン・ペレーズなど人気俳優を配し、人間と音楽の神秘に迫った作品である。
【シネマひとりごと】
本作の主役ラファエル・ペルソナは、デビュー時からアラン・ドロンの再来と言われ続けて10数年。いまだその冠を超えるめぼしい惹句が見当たらない。容姿が整いすぎているせいか、表情を変えてもなぜか無表情に見えてしまう逆説的な個性の持ち主だ。しかし、今回、謎に包まれたラヴェルの人間性がペルソナの摑みどころのなさに見事に一致した。本作にも登場するラヴェルの女友達でピアニストのマルグリットによれば、彼は自分の感情を包み隠し、無感覚で冷たい人間だと思われていた(音楽之友社『ラヴェル 回想のピアノ』)。また、非常に几帳面で、朝5時まで起きていても、必ずズボンにアイロンがけをしてから寝ていたらしい。そんな性格もあり、彼は「スイスの時計職人」と呼ばれるほど、精巧緻密なオーケストレーションで有名だった。14分を超える同じ旋律とリズムの繰り返しの「ボレロ」が飽きないのは、匠の計算しつくされた技なのだろう。少しずつ楽器が増え、その音層が積み重なって、最後は祝祭的な高揚で終わる曲の展開には、中毒的な魅力がある。最も印象深いバージョンは映画『愛と哀しみのボレロ』でジョルジュ・ドンが踊る場面だろうが、本作冒頭のクレジットでは、無数のアレンジが流される。交響楽はもちろん、ジャズ風、民族音楽風、ポップ風など、さまざまに編曲された世界中の「ボレロ」が登場する。日本でもフィギュアスケートのプログラムに使用されたり、車のCMソングや、はたまたGACKTのライブで登場前に流れる曲も必ずボレロである。猫も杓子もとは言わないが、本作は、それほどまでに人々の心を摑む曲を作ったラヴェルという人間の不思議さを浮き彫りにしている。