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中条志穂「イチ推しフランス映画」

映画『天国でまた会おう』

映画『天国でまた会おう』


© 2017 STADENN PROD. – MANCHESTER FILMS – GAUMONT – France 2 CINEMA © Jérôme Prébois / ADCB Films

+ 監督・脚本・主演(アルベール):アルベール・デュポンテル Albert Dupontel
+ エドゥアール:ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート Nahuel Pérez Biscayart
+ プラデル:ローラン・ラフィット Laurent Lafitte

2019年3月1日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国順次公開

配給:キノフィルムズ/木下グループ

[公式HP]http://tengoku-movie.com

 『その女アレックス』でその年のミステリーのベストワンを総なめにしたピエール・ルメートル。彼のゴンクール賞受賞作『天国でまた会おう』を映画化した波乱万丈の感動作である。

 第一次世界大戦終結直前の1918年。フランス軍の中年兵アルベールは、上官プラデルの悪事に気付いたせいで穴に落とされ生き埋めになる。仲良しの若い兵士エドゥアールは彼を救い出した直後に爆撃にあい、顔の半分を失ってしまう。アルベールの献身的な看護によりエドゥアールは持ち直すが、資産家の父ペリクール氏と折り合いが悪く、家に帰ることを拒む。そのためアルベールは、エドゥアールの戦死を偽装し、彼の面倒を見ながら働く生活を強いられる。エドゥアールはモルヒネの依存症に陥るが、持ち前の器用さを生かして、傷ついた顔を隠すための仮面の製作にとりかかり、生きる希望を見出してゆく。そして戦没者の記念碑をネタにして、国を相手取った詐欺計画を思いつく。アルベールも理不尽な世の中に嫌気がさし、この計画に加わるのだが……。監督・主演はアルベール・デュポンテル。原作者のルメートルも脚本に参加し、アイデア豊かな展開と魔術的な映像美でフランスでは大ヒットし、監督賞はじめセザール賞の5部門を受賞した。原題はルメートルの原作と同じAu revoir là-haut(天国でまた会おう)。

【シネマひとりごと】

 物語は主人公アルベールの警察での告白から始まる。ここから舞台は戦前にとび、どんでん返しのラストまで鮮やかな復讐のリレーが繰り広げられる。原作者ルメートルはこれまでも虐げられた者による復讐をテーマとして、巧妙なトリックのミステリーを得意としてきた。一方、本作は原作とは異なる感動的なエンディングを用意して出色の出来栄えとなっている。『BPM ビート・パー・ミニット』の主演をつとめた若手俳優ナウエル・ペレーズ・ビスカヤートの繊細な演技をはじめ、配役陣も文句のつけようがない。戦争で被害を被るのはいつも弱者だ。甘い汁を吸うお偉方や、戦争をおしすすめる輩へ鉄槌を下す、怒涛の復讐劇には胸がすく。監督のデュポンテルは、フランスが平和を掲げながらも、フランスの通りに将軍の名がつけられたり、凱旋門に刻まれる名がすべて戦争を起こした軍人であることは矛盾しているという。本作には、戦争の功労者を称える風土に疑問をつきつける監督の社会的メッセージも込められている。

 また、『天国でまた会おう』の後に出版された、続編ともいえる『炎の色』には、登場人物たちのその後の物語が描かれている。こちらも前作に負けず劣らずの壮大なミステリーで、読み進めるのが惜しいほどの面白さだ。次から次へとアレクサンドル・デュマばりの復讐劇が連鎖するこの家族の行く末は……? こちらの映画化もぜひ期待したい。

◇初出=『ふらんす』2019年3月号

『ふらんす』2019年3月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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