白水社のwebマガジン

MENU

中条志穂「イチ推しフランス映画」

映画『アンティークの祝祭』

映画『アンティークの祝祭』


©Les Films du Poisson - France 2 Cinéma - Uccelli Production – Pictanovo

監督・脚本:ジュリー・ベルトゥチェリ Julie Bertuccelli
クレール・ダーリング:カトリーヌ・ドヌーヴ Catherine Deneuve
マリー・ダーリング:キアラ・マストロヤンニ Chiara Mastroianni
若き日のクレール:アリス・タグリオーニ Alice Taglioni

近日公開(最新情報は下記公式HPをご確認ください)

配給:キノフィルムズ/木下グループ

[公式HP]http://clairedarling.jp/

 80歳を目前に控えた大女優カトリーヌ・ドヌーヴと、その実娘キアラ・マストロヤンニが母子の役で共演する。ドヌーヴ演じる主人公は、長年かけて集めたアンティークのコレクションを手放し、最期の日を迎える。重厚なアンティークに彩られる幻想的な雰囲気の中で、自分の死と向き合う主人公の心情に迫る人間ドラマである。

 大邸宅で一人暮らしをするクレールは、ここ最近、認知力が衰え、過去と現在が混乱することが多くなっていた。そんなある日、突然、今日が自分の最期の日と確信し、アンティークのコレクションをガレージセールにかけ、人生の整理を始める。高価なアンティークをただ同然で売りとばすクレールを不審に思った知人のマルティーヌは、クレールの娘マリーに状況を知らせる。マリーは過去のわだかまりから母クレールと疎遠になっていたが、20年ぶりに母のもとを訪ねる。やがて、夫の死の記憶をひきずるクレールの思いを辿ることで、二人の感情の行き違いは次第にほどけてゆくのだが……。原題はLa Dernière folie de Claire Darling(クレール・ダーリングの最後の狂気)。

【シネマひとりごと】

 カトリーヌ・ドヌーヴとキアラ・マストロヤンニの実の母娘が、役柄上も親子の役で共演するのは、アンドレ・テシネ監督『私の好きな季節』、クリストフ・オノレ監督『愛のあしあと』、ブノワ・ジャコ監督『3つの心 あのときもしも』(劇場未公開)以来、この作品で4作目となる。娘のキアラは年を経るにつれ、容貌が父のマルチェロ寄りになり、いまや、どこから見ても父の生き写しだ。母ドヌーヴが年齢以上に生き生きしているせいもあり、本作では母と比べてしぼんだように見えてしまうのが気の毒である。『3つの心~』のときはシャルロット・ゲンズブールの妹の役だった。シャルロットは70年生まれ、キアラは72年なので、年齢的には間違っていないが、シャルロットの姉さんの間違いじゃないの、というくらい違和感があった。

 本作では母ドヌーヴの圧倒的な存在感に押され気味のキアラだが、まもなく公開されるオノレ監督『今宵、212号室で』では、本作の地味な役から一転、ドン・ファンの女性版のような奔放なヒロインを演じ、カンヌ映画祭で「ある視点」部門の最優秀演技賞を獲得した。母ドヌーヴに似て、少々突拍子もないところも彼女の持ち味だ。ホラー映画への出演を熱望し、ホラー大好き人間とのことだが、これはそもそもドヌーヴ仕込みで、幼いころ母と初めて見に行った映画が、ポランスキー監督『吸血鬼』。年齢制限があり、ドヌーヴは劇場の切符売りを買収して娘に見せたそうだ。キアラの夢は、タランティーノの後継と呼ばれるホラー映画の新世代、イーライ・ロス監督の血みどろ系ホラー『キャビン・フィーバー』に出てくるような納屋(キャビン)を持つことだという。こんなにマニア性の高いホラー映画を引っ張り出してくるあたり、オタクとしても一癖ありそうだ。怪奇映画で花咲くキアラ、ぜひ見てみたい気がする。

◇初出=『ふらんす』2020年5月号

『ふらんす』2020年5月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

タグ

バックナンバー

フランス関連情報

雑誌「ふらんす」最新号

ふらんす 2024年12月号

ふらんす 2024年12月号

詳しくはこちら 定期購読のご案内

ランキング

閉じる