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中条志穂「イチ推しフランス映画」

パリに暮らす人々の人生の交錯を描く『パリのどこかで、あなたと』

『パリのどこかで、あなたと』


© 2019 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE - STUDIOSTUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMACANAL CINEMA

監督・脚本:セドリック・クラピッシュ Cédric Klapisch
レミ:フランソワ・シヴィル François Civil
メラニー:アナ・ジラルド Ana Girardot
レミの心理療法医:フランソワ・ベルレアン François Berléand

2020年12月11日(金)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開中

配給:シネメディア

[公式HP]someone-somewhere.jp

 パリに暮らす人々の人生の交錯を鮮やかに描き出すセドリック・クラピッシュ監督の最新作。

 故郷の山村を出て、パリで一人暮らしをするレミは、流通業で働いているが、睡眠薬も効かない極度の不眠症だった。仲間が次々とリストラされる中、自分だけクビを免れた罪悪感もあり、ある日、ストレスから電車の中で卒倒してしまう。そこで、心理セラピーを受けるために、医師のもとを訪ねる。

 一方、レミの隣のアパートに住む免疫学研究員のメラニーは失恋の痛手からか、いくら寝ても寝足りない過眠に悩み、セラピーに通うことになる。二人はそれぞれ、友人や家族のすすめでSNSのマッチングアプリに登録し、人と会うことを重ねるが、空虚な心は埋まらずうまくいかない。隣り合うアパートに住み、同じ電車で通勤し、道ですれ違うことはあっても互いを知らない二人。そんな彼らに出会いのチャンスは訪れるか……?

 ソーシャル・メディア時代に特有の、簡便すぎる人とのつながりが提起する問題を、ユーモアを交えつつ鋭くえぐり出す。都会に住むことの孤独や不安と折り合いながら、真のつながりを求める若者たちの日常がリアルに活写されている。原題はDeux moi(二人の私)。

【シネマひとりごと】

 久々にパリでの映画作りに舞い戻ってきたクラピッシュ監督。『スパニッシュ・アパートメント』『ロシアン・ドールズ』『ニューヨークの巴里夫(パリジャン)』の「青春三部作」ののち、もうパリで撮ることに飽きたとのたまい、ブルゴーニュのワイン畑を舞台に佳作『おかえり、ブルゴーニュへ』を撮りあげたものの、本作には、やはりパリが一番という監督の本音がのぞいているようだ。アパートの窓から見える、遠景のサクレ・クール寺院やセーヌ川をのぞむサン=ルイ橋の美しい風景に、主人公たちがよく立ち寄るアラブ系のスーパー……パリという街の多彩さを生活者の目線から気負いなく描いている。「青春三部作」に見られるような、パリの街中を全裸で走り回ったり、節操のない男女が騒動を起こすようなドタバタした雰囲気は影を潜め、本作はクラピッシュ作品の中で最も落ち着き、円熟味を増したといえる。クラピッシュは同じ俳優を使うことで有名だが、クラピッシュ作品の顔であるロマン・デュリスは現在46歳。さすがに青春を演じさせるにはもう無理がある。そこで、デュリスの雰囲気をそのまま引き継いだような、いたずらっぽい笑顔が魅力的なフランソワ・シヴィルが新たな常連となった。もう一人の主人公アナ・ジラルドも前作からの続投だが、この二人が出会い、劇中で言葉を交わすのは、なんとエンドロールの直前という珍しい物語だ。だが、原題のDeux moiが示す通り、二人の人生が不思議とシンクロしているため、すれ違いばかりでいつ出会うのだろうという韓国ドラマのようなあざとさはない。凝りに凝ったロマンチックなラストには唸らされること間違いない。

◇初出=『ふらんす』2021年1月号

『ふらんす』2021年1月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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