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中条志穂「イチ推しフランス映画」

ベルナデット 最強のファーストレディ

© 2023 Karé Productions - France 3 Cinéma - Marvelous Productions - Umedia

映画『ベルナデット 最強のファーストレディ』

2024年11月8日(金)より新宿ピカデリー他全国順次公開
配給:ファインフィルムズ
[公式HP] https://bernadette-movie.com/

監督:レア・ドムナック Léa Domenach
ベルナデット・シラク:カトリーヌ・ドヌーヴ Catherine Deneuve
ベルナール・ニケ:ドゥニ・ポダリデス Denis Podalydès
クロード・シラク:サラ・ジロドー Sara Giraudeau

 カトリーヌ・ドヌーヴが実在のシラク大統領夫人を演じ、そのコミカルな演技でフランス中を沸かせた大ヒット映画。
 ベルナデットは夫ジャック・シラクを大統領にするべく、陰でひたすら支えてきた。ようやく夫が大統領となり、ベルナデットは自分も官邸で「大統領夫人」として表立った仕事ができると張り切る。だが夫や、広報アシスタントを務める自身の娘や側近たちからは、時代遅れでメディアに向いていないから引っ込んでいろと言われる。しかも夫は亭主関白で浮気もしたい放題。運転手にまでバカにされて、ベルナデットの反抗心に火がつく。一方、娘からあてがわれた補佐役のニケとは日陰者同士で心が通じ合い、協力してメディア戦略に励む。するとベルナデットの率直な発言が受け、親しみやすいファーストレディとして国民の人気が急上昇する。さらに彼女が赤裸々な自伝を発表したため、夫シラクは自分の地位が脅かされることを恐れ、妻の活動を抑えようとするのだった……。
 監督は本作でデビューした女性監督レア・ドムナック。大統領夫人の華麗な活躍だけでなく、親日家で知られる故シラク大統領の知られざる姿や、政治的かけひきもユーモアたっぷりに描いている。

【シネマひとりごと】
 故シラク大統領は大の親日家で、愛犬に「スモウ」と命名するほどの相撲好きで、親しみやすい印象がある。だが、本作のシラク氏は男尊女卑で亭主関白の浮気者だ。その夫人を80歳のカトリーヌ・ドヌーヴが演じるというだけでフランス国民は興味津々だった。ドヌーヴはエリザベス女王か?と見まごうばかりの、パステルピンクのスーツに、ちょこんと頭に載せたお帽子姿で登場、その野暮ったさは、フランソワ・オゾン監督『しあわせの雨傘』でドヌーヴが演じたブルジョワ社長夫人を思い出させる。そんな時代遅れの装いが、メディアの場で活躍するにつれて洗練されたパンツスーツ姿に変わってゆく。日陰者として追いやられていた彼女が、颯爽とした女性政治家へと転身するさまを、さすがドヌーヴ、じつに楽し気に演じていて小気味がいい。91歳のシラク夫人は現在、ほとんど外出できない要介護状態でこの映画を見ていないようだが、本作にも登場する夫妻の娘のクロードは、公開前に本作を見ている。登場人物がほぼ存命中ということもあり、本作冒頭ではこの映画がフィクションであることをテロップで二度も出した。また、ナレーションを聖歌隊に歌わせるなどミュージカル風の演出で虚構感を出したものの、クロードは全く認められないと強い拒否感を表した。ダイアナ妃がパリで交通事故死した日、官邸が大騒ぎとなって大統領を探したところ、イタリア女優(クラウディア・カルディナーレという噂も)と密会中だったなどと描かれては黙っていられなかったのだろう。だが本作はそんな家族の恥部など笑い飛ばす嫌味のない上質のコメディに仕上がっている。狡猾なサルコジ前大統領との確執を明かす内情も面白く、当時の政界の雰囲気を大胆に切り取った新人監督に拍手を送りたい。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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