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中条志穂「イチ推しフランス映画」

ミス・コンテストの頂点をめざす『MISS ミス・フランスになりたい!』

映画『MISS ミス・フランスになりたい!』

© 2020 ZAZI FILMS  CHAPKA FILMS  FRANCE 2
CINEMA  MARVELOUS PRODUCTIONS

監督・脚本:ルーベン・アウヴェス Ruben Alves
アレックス:アレクサンドル・ヴェテール Alexandre Wetter
ヨランド:イザベル・ナンティ Isabelle Nanty
アマンダ:パスカル・アルビヨ Pascale Arbillot

2021年2月26日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開

配給:彩プロ

[公式HP]https://missfrance.ayapro.ne.jp/

 ジャン=ポール・ゴルチエなどのショーに出演するフランスの人気ジェンダーレス・モデル、アレクサンドル・ヴェテール。彼が、女性の美しさを競うミス・コンテストの頂点をめざす青年を演じた話題作だ。

 パリの場末でボクシングジムの手伝いをしているアレックスの幼い時の夢は、ミス・フランスになることだった。ある日、アレックスは幼馴染のエリアスに再会し、彼が夢をかなえてボクサーになったことに触発され、自分も夢を実現させようと決心する。ドラァグ・クイーンのローラはじめ、下宿先の多種多様な仲間に助けられながら、アレックスは女性としての立ち居振る舞いを身に着け、本物の女性と見まごうばかりの美しさを増してゆく。そしてついにミス・フランスの地区大会で優勝、世間の人気も急上昇し、彼は舞い上がっていた。だが、決勝大会に向けた苛酷なダンスやマナーの訓練や、出場者たちとの軋轢で、アレックスは、次第に本当の自分を見失ってゆくのだった……。ありのままの自分を曝け出し、それを世間に認めさせるまでの青年の、心の葛藤を爽やかに描いた映画だ。

【シネマひとりごと】

 このところ、時代を反映してか、LGBTがテーマの映画が増えている。本誌でも昨年、『マティアス&マキシム』と『燃ゆる女の肖像』を取り上げたが、今回ご紹介する映画はトランスジェンダーの青年が女性になりすましてミス・コンテストに出場するという奇想天外な物語。この種の映画は、主役の男優がいかに女性に見えるかにかかっている。記憶する中で、女性を演じた男優で一番美しかったのは、映画『クライング・ゲーム』(1992)に登場したジェイ・デヴィッドソンだ。あるいは、性転換手術を受けた男性の実話を映画化した『リリーのすべて』(2015)のエディ・レッドメインや、トップバレリーナになることを目指す青年の物語『Girl / ガール』(2018)のビクトール・ポルスターなどはどこから見ても女性だった。本作のアレクサンドル・ヴェテールも、女装した男性ではなく、美しい女性そのもので、その艶やかさには感嘆するしかない。監督のルーベン・アウヴェスがゴルチエのショーに出演するヴェテールの写真を見て、主演は彼しかいないと思ったのも頷ける。もちろんヴェテールは手術やホルモン注射などはしていない。ちなみに、昨年設立100周年を迎えた伝統あるミス・フランスの応募条件は、フランス国籍を持つ、17歳から24歳までの未婚女性、身長170センチ以上、犯罪歴がない者となっている。整形は禁止とのことだが、性転換手術を施し、性同一性障害と認められ、戸籍上も女性ならば、資格はあるのか聞いてみたいところだ。その他、一般教養の筆記試験や、コミュニケーション能力やスピーチで人間性を考査するとあり、容姿だけでは優勝できない狭き門らしい。審査員の心証を良くしようと、スピーチで「動物や子供や障害者が大好きです」と思わず口にしてしまう本作の中の候補者のエピソードには苦笑するが、華やかなコンテストの裏側が描かれているのも本作の見どころである。

◇初出=『ふらんす』2021年3月号

『ふらんす』2021年3月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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