2018年2月号 『ぼくの名前はズッキーニ』
『ぼくの名前はズッキーニ』
© RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUM FILMS / 2016
+ Réalisateur Claude Barras
+ Scénario Céline Sciamma
2018年2月10日(土)より新宿ピカデリー、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
配給:ビターズ・エンド
公式HP : http://boku-zucchini.jp/
2016年のアヌシー国際アニメーション映画祭でグランプリと観客賞をダブル受賞した話題作。ズッキーニ(Courgette)という愛称の9歳の少年イカールは、母親と二人暮らし。母親は酒浸りで子供の世話をせず、ズッキーニはいつも一人で遊んでいた。ある日、不慮の事故で母親が亡くなり、ズッキーニは孤児院へ送られる。そこは、ズッキーニのように育児放棄や虐待にあった子供や、親が強制送還されたり、麻薬中毒や服役中だったりする子供が暮らす施設だった。ズッキーニは、入所してすぐにリーダー格のシモンたちから、からかわれたりするものの、同じ辛い境遇の子供同士ですぐに打ち解け始める。ある日、孤児院にカミーユという大人びた女の子が入ってくる。ズッキーニはカミーユに一目ぼれし、仲良くなるが、カミーユもまた複雑な家庭の事情を抱えていた。そして、扶養手当欲しさにカミーユの叔母がカミーユを連れて行ってしまう。ズッキーニと仲間たちはカミーユの救出作戦を考え出すのだった……。
巧みなストップモーション(コマ撮りの手法)によって人形たちが、生き生きと感情豊かに動きまわる。苛酷な人生を乗り越えてゆく希望にあふれた作品である。原題はMa vie de Courgette(ズッキーニとしての僕の人生)。
【シネマひとりごと】
アヌシー国際アニメーション映画祭は、世界最大のアニメのコンクールである。そのアニメの祭典で、本作は2016年長編部門のグランプリを受賞した。日本では過去に宮崎駿が『紅の豚』で、高畑勲が『平成狸合戦ぽんぽこ』で、また、2017年には湯浅政明が『夜明け告げるルーのうた』でグランプリを受賞している。『ぼくの名前はズッキーニ』は、その最高賞だけでなく、観客賞も受賞した。個性あふれるキャラを駆使して緻密に練り上げたドラマもさることながら、人形のもつ素朴な愛らしさが人気を得たのだろう。人形の外見は明らかにティム・バートンのストップ・モーションアニメ作品の影響を受けている。だが、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』や『コープス・ブライド』の人形は、バートン独特の世界観が反映され魅力的ではあるものの、愛らしいとは言い難い。それに対して、本作の人形はむしろ『ウォレスとグルミット』に近い温かみを感じさせる。それもそのはず、監督のクロード・バラスは『ウォレスとグルミット』の監督ニック・パークの大ファンで、本作の演出法もパークの『快適な生活』にならっていると語っている。
また、バラス監督はキャラクター製作にあたり『大人は判ってくれない』の公開時の、ジャン=ピエール・レオーの各種インタビューも参考にしたという。先月号でもご紹介したがレオー様の影響力は絶大だ。子供たちの世界のダークサイドを描きながらも本作が湿っぽくなく前向きなのは、アントワーヌ・ドワネルの精神がズッキーニに込められているからかもしれない。
◇初出=『ふらんす』2018年2月号
*『ふらんす』2018年2月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。