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中条志穂「イチ推しフランス映画」

フランス映画界の名優が崩壊寸前の夫婦を演じる『ベル・エポックでもう一度』

映画『ベル・エポックでもう一度』


©2019-LES FILMS DU KIOSQUE-PATHÉ FILMS-ORANGE STUDIO-FRANCE 2 CINÉMA-HUGAR PROD-FILS-UMEDIA

監督・脚本:ニコラ・ブドス Nicolas Bedos
ヴィクトル:ダニエル・オートゥイユ Daniel Auteuil
アントワーヌ:ギョーム・カネ Guillaume Canet
マリアンヌ:ファニー・アルダン Fanny Ardant

2021年6月12日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開

配給:キノフィルムズ

[公式HP]https://www.lbe-movie.jp/

 フランス映画界きっての名優、ダニエル・オートゥイユとファニー・アルダンが崩壊寸前の夫婦を実に生き生きと演じた話題作。

 かつては有名なイラストレーターだった初老のヴィクトル。だが今は時代の波に乗れず、仕事も失い、後ろ向きな生活を送っていた。一方、妻マリアンヌはスマホを使いこなし、動画配信やネットショッピングを楽しむ暮らしに適応している。マリアンヌは老けこんでゆく夫に嫌気がさし、とうとう家から追い出してしまう。そんな父を元気づけようと、息子マキシムは「タイムトラベルサービス」をプレゼントする。映画のセットを応用し、俳優をエキストラ出演させ、客の好きな時代を再現する体験型のアトラクションだ。ヴィクトルは1974年のとある日を依頼する。その日に自分の人生を変えた運命の女性と出会ったのだ。ヴィクトルは再現された記憶通りの過去を再体験するうち、すっかり夢中になる。そして、アトラクションの延長費用を捻出するためにイラストの仕事を再開し、元気を取り戻してゆく。一方、マリアンヌは、夫が生き生きとしてきたことに複雑な思いを抱くようになる……。壊れた夫婦関係を「過去への旅」で見つめなおす斬新な脚本に引き込まれる。70年代のレトロな世界観も見事に再現している。ファニー・アルダンがセザール賞助演女優賞を受賞し、脚本賞、美術賞も獲得。原題はLa Belle époque(良き時代)。

【シネマひとりごと】

 監督のニコラ・ブドスは本作が長編わずか2作目というキャリアだが、よくぞまあ集めたという名優揃いの豪華な作品だ。ダニエル・オートゥイユとファニー・アルダンは言わずもがな、本作の劇中劇で、いかにもその業界にいそうな演出家に扮するギヨーム・カネ、主人公が旅する時代でカフェの客を演じたアラン・レネ作品の常連ピエール・アルディティ、主人公の妻の間男役のドゥニ・ポダリデスなど、主役級の俳優が一堂に会している。中でもやはりファニー・アルダンは燦然と輝いている。174センチの長身で、颯爽と歩くカッコいい72歳。本作でセザール賞助演女優賞を受賞したが、その授賞式で、堂々と旧知のロマン・ポランスキーを擁護した。ポランスキーはドレフュス事件を扱った新作「J’accuse(私は弾劾する)」で最優秀監督賞を受賞したが、ポランスキーの児童性虐待を行った過去に対して、女優アデル・エネルなどから手厳しい糾弾が行われた。だが、「みなさんは賛同しないかもしれないが、私はポランスキーが大好きだし、彼が賞をとれて嬉しい、一緒にギロチン台にまでついていくわ……自由万歳!」とファニー姐さんは言い放った。ポランスキーへの授賞に怒り、捨て台詞を吐いて退場したエネルの勇気もすごいが、その感情をぶちまけるやり方のせいで、アルダンはいっそうエレガントに見えた。#MeToo運動に対して「男性にも口説く自由がある」と発言して大炎上となったカトリーヌ・ドヌーヴの大御所感と通じるものがある。男性優位の映画界をくぐり抜けてきた強者の余裕を見せつけた一幕だった。

◇初出=『ふらんす』2021年6月号

『ふらんす』2021年6月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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