画家ボナール ピエールとマルト
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映画『画家ボナール ピエールとマルト』
2024年9月20日(金)よりシネスイッチ銀座他にて全国順次公開
配給:オンリー・ハーツ
[公式HP] http://bpm.onlyhearts.co.jp
監督:マルタン・プロヴォ Martin Provost
マルト:セシル・ドゥ・フランス Cécile de France
ピエール:ヴァンサン・マケーニュ Vincent Macaigne
ルネ:ステイシー・マーティン Stacy Martin
20世紀絵画におけるナビ派の代表的画家ピエール・ボナール。彼に終生インスピレーションを与え続けた妻マルトとの、出会いから晩年までの破天荒な夫婦愛を描いた映画。
1893年、画家のピエールはパリの街なかで、自分の絵のモデルとしてマルトに声をかける。ピエールはマルトの謎めいた強烈な個性に惹かれ、二人は一緒に暮らすようになる。あるとき二人は、ノルマンディーの田舎に人里離れた一軒家を買う。そこは周囲を川に囲まれた楽園のような場所で、ピエールは生活の場をパリから移し、マルトとともになかば隠遁生活を送りながら、絵画制作にいそしんだ。社交界からは遠ざかっていたピエールだが、やがてマルトをモデルに描いた裸体画が評判となり、展覧会で大成功をおさめる。毎週のようにパリに赴くピエールに、マルトは不安を抱く。ある日、マルトはピエールのパリのアトリエで、絵のモデルとなった若い女子学生ルネと出会い、ピエールとマルトとルネの奇妙な三角関係が始まる……。
『セラフィーヌの庭』で素朴派の女性画家の人生を描いたマルタン・プロヴォ監督が、フランス映画界で今人気のヴァンサン・マケーニュを主演に、画家ボナールの創作秘話と、妻マルトとの不可思議な関係に迫る。今年の横浜フランス映画祭で観客賞を受賞した。
【シネマひとりごと】
ボナールは入浴中の妻マルトを好んで描き、長年にわたって同じような入浴画を何枚も描いている。風呂に入る妻がどれほど彼の創作意欲をかきたてたのかは謎だが、入浴画といえばボナールだ。マルトは喘息の治療もあり、一日に何度も入浴していた。入浴のみならず、この映画は水に入る場面がことのほか多い。必然的にマルトを演じたセシル・ドゥ・フランスの裸の演技も頻出する。全裸でおいかけっこをしたり、衛生的に疑念のわくような苔緑色の川にも真っ裸でドボン。セシル49歳、頑張りました。セドリック・クラピッシュ作品などでおなじみの彼女は、外見のサバサバした感じもあって、ボーイッシュな役柄が多かった。だが本作で演じるボナールの妻マルトは、精神的に不安定な女性。これに対して、ボナールの芸術的庇護者であるミシア・セールは、堂々として外交的なキャラである。夫を次々と変えては人脈を広げ、当時の芸術サロンの女王と言われていた。ディアギレフやシャネルやジャン・コクトーを援助し、数多くの画家のミューズとしても有名である。前号でご紹介した『ボレロ』にもミシアが登場していたが、ラヴェルを擁護しつつも、どっちつかずな態度で振り回していた。シャネルによると、ミシアは人の悪口を言わずにいられない厄介な性格の人物だったらしい。本作でミシアを演じたのはアヌーク・グランベール。かつてシャルロット・ゲンズブールと『メルシー・ラ・ヴィ』でダブル主役を張り、鮮烈な魅力を振りまいていたグランベールだが、本作ではずけずけと踏み込んだ発言をマルトに浴びせるちょっとイヤな女だ。だが情念の女マルトも負けてはいない。女二人が川に入って罵り合うド根性対決では水に強い(?)マルトがミシアを言い負かす。水面下にあったマルトの感情が発露する水も滴る名場面である。