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中条志穂「イチ推しフランス映画」

2017年10月号 『汚れたダイヤモンド』



© LFP‐Les Films Pelléas / Savage Film / Frakas Productions / France 2 cinéma / Jouror Productions

『汚れたダイヤモンド』

+ Réalisateur  Arthur Harari
+ Pier  Niels Schneider
+ Gabriel  August Diehl
+ Rachid  Abdel Hafed Benotman

2017年9月16日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開中
配給 : エタンチェ
公式HP : https://www.diamantnoir-jp.com/

 新たな才能の出現と話題を呼ぶ、アルチュール・アラリ監督による硬派な犯罪映画(フィルム・ノワール)。パリで強盗団の一味として働くピエールは、目と記憶の良さでリーダーのラシッドから一目置かれている。そんなある日、警察から、長く会わなかった実の父親が野垂れ死にしたと知らされる。ベルギーのアントワープのダイヤモンド商の家に生まれた父親は、若いころダイヤの研磨作業中の事故で片手の指を全部切断してしまう。そしてその後、会社も財産も兄のジョーに奪われ、不遇の人生をたどったと聞かされていた。父親の葬儀の数日後、伯父ジョーの息子ガブリエルが、ピエールにアントワープに来いと誘ってくる。ピエールは父親の復讐を決意し、ラシッドの助力で伯父のダイヤを奪う計画を立て、アントワープに旅立つ。そして、てんかん持ちのガブリエルの手助けをしたり、窮地に陥った伯父を救ったりしたことで、伯父からの信頼も獲得する。やがて、ダイヤ強奪のチャンスを迎えるのだが……。主演のニールス・シュネデールは本作でセザール賞の新人男優賞を受賞した。『あるいは裏切りと言う名の犬』以降、久々のフレンチ・ノワールの快作である。原題はDiamant noir(黒いダイヤモンド)。

 【シネマひとりごと】
 主演は、人間離れしたシルエットで彫刻のように美しいニールス・シュネデール。同じ彫像系美男では先輩のルイ・ガレルがいるが、最近ぷっくりしてきて、まもなく公開予定の『愛を綴る女』のニコール・ガルシア監督からダイエットまで命じられてしまった。そんなルイを脅かす期待の新人のシュネデールは、もともとグザヴィエ・ドラン監督のお気に入りで、過去にドランの『胸騒ぎの恋人』でゲイの役を演じ、端正極まりない容姿が注目を浴びた。アンヌ・フォンテーヌ監督の『ボヴァリー夫人とパン屋』では年上の女性を落とす青年役、やはり近々公開される振付家プレルジョカージュ監督の『ポリーナ、私を踊る』ではバレエダンサーと、次々にはまり役をおさえている……と思ったら、本作では髪をオールバックにし、労働者風のジャンパーをひっかけて登場。そうかと思うと真っ赤なポロシャツ姿になったり、イタリア風なのか時代遅れなのかよくわからない謎のファッションで見る者を魅了する。そして出ました! 美男をさらに美しく見せる左利きで(あくまで個人の意見ですが)、彼が文字を書く姿は名画そのもの。『胸騒ぎの恋人』ではくるくる巻きのブロンドで、天使のようにイノセントに見えたが、今回はガラリと雰囲気を変えてダークな魅力で迫る。
 美形好きとしてはついシュネデールに目がいってしまうが、この『汚れたダイヤモンド』、新人監督とは思えない映像センスで、冒頭で指が切断される場面の大胆さにも感嘆させられる。音楽の効果もあるが、堂々たるイタリア映画かとみまごうショットもあり、ただ者ではない。次回作はなんと、太平洋戦争最後の日本兵・小野田寛郎の物語だという。アラリ監督は、間違いなく今後のフランス映画に新風を巻き起こしてくれるだろう。

◇初出=『ふらんす』2017年10月号

『ふらんす』2017年10月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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