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中条志穂「イチ推しフランス映画」

映画『最高の花婿アンコール』

映画『最高の花婿アンコール』


©2018 LES FILMS DU PREMIER - LES FILMS DU 24 - TF1 FILMS PRODUCTION

監督・脚本:フィリップ・ドゥ・ショーヴロン Philippe de Chauveron
クロード・ヴェルヌイユ:クリスチャン・クラヴィエ Christian Clavier
マリー・ヴェルヌイユ:シャンタル・ロビー Chantal Lauby
ダヴィッド・ベニシュ:アリ・アビタン Ary Abittan

2020年3月27日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国順次公開

配給:セテラ・インターナショナル

[公式HP]www.cetera.co.jp/hanacore

 世界中で大ヒットした『最高の花婿』から4年、異文化多国籍ファミリーのその後を、さらに鋭いユーモア感覚で描いた作品。

 ヴェルヌイユ夫妻の娘4人が、それぞれ人種の異なる相手と結婚して4年が経った。夫妻は4人の婿の祖国─コートジボワール、アルジェリア、中国、イスラエル─を旅して、改めてフランスこそ一番だと思う。娘一家を招いて旅の報告をし、フランスの素晴らしさを褒めたたえるが、婿たちはフランスに不満を抱いている。ほどなく、4人の娘全員がフランスから外国へ移住するという。移住を諦めさせたい夫妻はあれこれ説得するがうまくいかない。そんな中、婿の一人、シャルルの妹が女性と同性婚をすることになり、ひと騒動を巻き起こす。一方、ヴェルヌイユ夫人は婿たちを引き留めるための策を考えていた……。

 前作に続き、異文化ならではの多様性をブラックユーモアまじりに嫌悪感を抱かせることなく演出している。今回はLGBT問題も発生、家族に新たな試練が待ち受ける。自国の欠点を認めつつ、異なる他者を受け入れるフランスの懐の深さが感じられる快心作だ。

 原題はQu’est-ce qu’on a encore fait au bon Dieu ? (神様、なぜ私たちはまたこんな目に?)

【シネマひとりごと】

 前作『最高の花婿』は、愛国心あふれる、生粋のフランス人ブルジョワが、異人種に心を開く過程をユーモラスに描き大成功した。主人公を演じた人気喜劇俳優、クリスチャン・クラヴィエの絶妙なコメディセンスと、少々意地の悪い気取った役柄とが相乗効果を発揮し、圧倒的な存在感を放っていた。だが物語の核をなすのは主人公夫妻と娘4人とその伴侶というファミリーだ。家族それぞれのキャラクター設定が卓抜で親しみがわく。たとえば主人公の妻は、いまどきの若さいっぱいのおばあちゃんで、おぼつかない操作でSNSに写真をアップするのに夢中になっている。この光景をどこかで見たような……そう、『渡る世間は鬼ばかり』の泉ピン子演じる五月(さつき)が、「さつキッチン」と称して料理を写真に撮ってブログにアップするのと同じ感覚である。時代を1歩遅れてドラマに取り入れるこのセンス、フィリップ・ドゥ・ショーヴロン監督はまさに日本を代表するホームドラマの巨匠、橋田壽賀子先生の同輩ではないか? この流れでいくと、橋田先生がLGBT問題をドラマで扱う日も近いかもしれない。『渡る世間は鬼ばかり』は娘5人、一方、本作は娘4人。お国柄か、本作には橋田作品の要ともいうべき嫁姑問題は出てこないが、婿への不満はどこでも共通のようだ。定番のファミリー映画として本国フランスでは人気が定着し、すでに第三弾の計画も進行中とのこと。フランス版「渡鬼」ともいえる本作、フランスの現在や本音を知るには最適の映画である。

◇初出=『ふらんす』2020年4月号

『ふらんす』2020年4月号「対訳シナリオ」で、映画の一場面の仏日対訳シナリオを掲載しています。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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