第1回 ジョーン・ロビンソンの名言
"The purpose of studying economics is not to acquire a set of ready-made answers to economic questions, but to learn how to avoid being deceived by economists. "
Joan Robinson(1955)
ケインズの愛弟子、ジョーン・ロビンソンのあまりにも有名な言葉。至るところで引用されるが、昔、都留重人・伊東光晴共訳『マルクス主義経済学の検討――マルクス・マーシャル・ケインズ』(紀伊國屋書店、1956年)に原文とともに載っていたので、人口に膾炙したのだろう。私にとっては師匠とそのまた師匠の共訳なら文句のつけようがないはずだが、後段が「だまされないようにすること」と意訳されていたので、私はあえて原文に忠実な訳を掲げることにしている。
「経済学を学ぶ目的は、経済問題に対する一連の受け売りの解答を得ることではなく、いかにして経済学者にだまされるのを回避するかを知ることである。」
この言葉は、当時の主流派であった新古典派にも、それに異を唱えるジョーン・ロビンソンのような異端派にもよく使われるようになったが、文脈がまるで異なる。新古典派は、ろくに理論をマスターせず「エコノミスト」と称する評論家が経済学を知っているかのように語るのを嫌っていたし、逆に異端派は、経済問題に対する新古典派的思考法だけが正解のように信じている人々を苦々しく思ってきたというように。この言葉が出てきたら、どのような文脈で使われているか、確かめてほしい。
Joan Robinson," Marx, Marshall, and Keynes," in Contributions to Modern Economics,1978,p.75.