第35回 ミュルダールの名言
"Valuations are always with us. Disinterested research there has never been and can never be. Prior to answers there must be questions. There can be no view except from viewpoint. In questions raised and the viewpoint chosen, valuations are implied."
Gunnar Myrdal(1978)
グンナー・ミュルダールは、若い頃、きわめて優れた経済理論家であり、1920年代にアメリカで勃興しつつあった制度主義の経済学には疑問を抱いていた。ところが、1940年代頃から、アメリカの黒人問題を研究した経験を経て、制度経済学者として生まれ変わることになった。「正義・自由・機会の平等」というアメリカの信条と、黒人に対する差別という現実の不調和を分析するには、理論だけで不十分で、制度的アプローチが必須であると悟ったからである。『アメリカのジレンマ』(1944年)や『アジアのドラマ』(1968年)などの著作は、制度経済学者としてのミュルダールの才能が花開いた初期の労作である。
それとともに留意すべきは、、ミュルダールが、経済学方法論の分野において、「価値前提の明示」を一貫して主張し、「価値自由」な普遍理論の信奉者を牽制し続けたことである。
「価値評価はつねに私たちとともにある。公平無私な研究というものは、決してあったためしがないし、決してあり得ない。答えの前に、問いがなければならない。観点を離れて見解はあり得ない。提起された問題や選択された観点のなかに、価値評価が含まれているのである。」
Gunnar Myrdal," Institutional Economics," Journal of Economic Issues, vol.12,no.4(December 1978),pp.778-779.