第15回 ジョン・リチャード・ヒックスの名言(2)
"Yet it has to be recognized that a general abandonment of the assumption of perfect competition, a universal adoption of the assumption of monopoly, must have very destructive consequences for economic theory."
John Richard Hicks(1946)
ヒックスの『価値と資本』は、彼が基本的に「ワルラシアン」であった当時の著作なので、全体を通じて完全競争が仮定されている。もちろん、当時でも、完全競争以外の独占、寡占、不完全競争などのモデルも存在していたが、それでも、全体的に独占を仮定してしまえば、『価値と資本』とは全く違う世界になるだろう。なぜなら、価格が需要と供給の関係によって決まるという均衡理論の根底が崩れるからである。
興味深いことに、後期ヒックスは、一般均衡理論から離れ、カレツキ的な価格決定二分法を採用するようになるのだが、その背景には、経済の歴史的変化によって現実が完全競争から遠い世界になった事実があったと思う。ヒックスが『経済史の理論』(1969年)という本を書いたときは、経済理論家に衝撃を与えたものであった。
「それでも認識しておかねばならないのは、完全競争の仮定を一般的に放棄し、独占の仮定を全面的に採用することは、経済理論にとってきわめて破壊的な帰結をもたらしたに違いないということである。」
John Richard Hicks, Value and Capital: An Inquiry into Some Fundamental Principles of Economic Theory, second edition, 1946,p.83.