第41回 ジョーン・ロビンソンの名言(3)
"The General Theory broke through the unnatural barrier and brought history and theory together again. But for theorists the descent into time has not been easy. After twenty years, the awakened Princess is still dazed and groggy."
Joan Robinson(1962)
ジョーン・ロビンソンは、アメリカのケインジアンによる標準的なケインズ解釈(45度線やIS/LM分析)に終始一貫して異を唱えた。例えば、IS/LM分析では、ケインズ経済学が再び均衡分析の枠組みのなかに押し込められている、と。彼女がそう言ったのは、ケインズの『一般理論』の核心を、「歴史的時間」のなかにある経済の「不確実性」という視点を提供した点に求めていたからであった。
「『一般理論』は、不自然な障壁を突破し、歴史と理論を再び接合させた。しかし、理論家にとっては、時間のほうに降りてくることは、簡単ではなかった。20年経過したのちでも、目を覚ました王女は、いまだに当惑し、ぐらついている。」
経済学者のなかには、ケインズ革命以後の彼女が、論敵に対して激しい非難の言葉を投げつけ、ますます左翼的になっていったことを嘆き、『不完全競争の経済学』(1933年)のように新古典派の枠組みのなかで優れた仕事をしていた頃を懐かしく思い出す人も少なくなったと聞く。だが、彼女は怯まず、死ぬまでケインズ革命の本質を理解しない人たちを「偽物」と呼び、「均衡から歴史へ」という方法論上の転換を叫び続けた。現在、彼女のあとをあえて追いかけようとする人は少なくなったが、若い研究者には、新古典派の仕事でノーベル経済学賞級の業績を成し遂げた宇沢弘文が彼女のシンパになった理由がよくわからないようである。カリスマ性のある女性であったことは間違いない。
Joan Robinson, Economic Philosophy, 1962, p.75.