第33回 カーズナーの名言
"Awareness that opportunities may go unnoticed and therefore ungrasped, allows us to explore the pure discovery of hitherto unnoticed opportunities. The theory of entrepreneurial discovery offers the key to understanding the market process."
Israel M. Kirzner(1997)
イスラエル・M・カーズナーは、ニューヨーク時代のミーゼスの愛弟子であり、アメリカにおけるネオ・オーストリア学派を代表する有力な論客の一人である。彼の業績は、なんといっても、ミーゼスの視点を生かした新たな企業者像を提示したことである。
「諸機会が注目されず、したがって把握されないままかもしれないと気づくことによって、私たちには、これまで注目されなかった諸機会を純粋に発見するという探求が許されるのである。」
シュンペーター が企業家をイノベーションの担い手として定義して以来、企業家論は圧倒的にシュンペーターの影響下に置かれてきたが、それに対して、カーズナーは、代表作『競争と企業家精神』(1973年)において、いまだ気づかれざる諸機会に対して「機敏な」者として企業家を捉えた。カーズナーの企業家は、シュンペーターの均衡破壊者としての企業家と違って、むしろ不均衡状態のなかで均衡に導くような役割を演じる。「市場均衡」ではなく「市場プロセス」に注目するというミーゼスの視点(オーストリア学派に共有されたものと言ってもよい)が弟子に受け継がれたのである。
Israel M. Kirzner, How Market Works: Disequilibrium, Entrepreneurship and Discovery, 1997.