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【根井ゼミ】「1日1文 経済学の名言」根井雅弘

第42回 ジョーン・ロビンソンの名言(4)

"Keynes himself was not interested in the theory of relative prices. Gerald Shove used to say that Maynard had never spent the twenty minutes necessary to understand the theory of value. On these topics he was content to leave orthodoxy alone."
Joan Robinson(1962)

 ケインズは、現代マクロ経済学の創設者である。しかし、45度線やIS/LM分析のように教科書だけでケインズ経済学を理解してしまうと、ケインズはミクロ経済学には全く関心がなかったかのように誤解される恐れがある。ケインズの愛弟子ならみなそう思っているかといえば、ところがなんと、ジョーン・ロビンソンまでが上の英文のように言っていた。

 「ケインズ自身は、相対価格の理論には関心をもっていなかった。ジェラルド・ショーヴがかつて言ったことがある。メイナードは、価値論を理解するために必要な20分間でさえ決して費やさなかった、と。これらのトピックスに関しては、彼は正統派をそのままにしておくことで満足していた。」

 確かに、ケインズの『一般理論』のなかに、新古典派すなわちマーシャルのミクロ経済学以上のものを求めても無駄だろう。だが、ショーヴがいうように、彼が20分間でさえ価値論の理解のために費やさなかったというのは言い過ぎである。なぜなら、例えば、『一般理論』の使用費用についての章が、ミクロの知識なしに理解できるとは思えないからだ。さらにケインズは、スラッファから『商品による商品の生産』の草稿を見せられたとき、「もし収穫一定の仮定が必要でないならば、それについての注意を喚起したほうがよい」という趣旨の適切なアドバイスさえしているのだ。

Joan Robinson, Economic Philosophy, 1962, p.76.

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著者略歴

  1. 根井雅弘(ねい・まさひろ)

    1962年生まれ。1985年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。1990年京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。現在、京都大学大学院経済学研究科教授。専門は現代経済思想史。『定本 現代イギリス経済学の群像』(白水社)、『経済学の歴史』、『経済学再入門』(以上、講談社学術文庫)、『ガルブレイス』、『ケインズを読み直す』、『英語原典で読む経済学史』『英語原典で読む現代経済学』(以上、白水社)、『経済学者の勉強術』、『現代経済思想史講義』(以上、人文書院)他。

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