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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

ドパルデュー裁判の余波と、クラピッシュ新作


La Venue de l’avenirのポスター

 5月13日にフランスの国民的俳優、ジェラール・ドパルデューが性的暴行で有罪となった事件は、フランス映画界に大きな影響をもたらしている。彼が出演した作品Les Volets Verts(緑の鎧戸/2022)の女性スタッフ2人から、撮影中、体を触られるなどの件で法的に訴えられていたものだ。もっとも、過去の被害を公にしている女性は他にも10人を下らない。
 ドパルデューの言動は何年も前から問題視されてきたものの、フランスでは押しも押されもせぬ名優として君臨してきただけに、業界は見て見ぬフリをしていた向きがある。その彼が有罪になったことは#MeTooムーブメントの大きな進展に繋がるだろう。
 一方、そのせいで影響を被っている企画もある。たとえば俳優のファニー・アルダンがメガホンを握る次回作。アルダンはこれまでLes Volets Vertsを含む12本の作品でドパルデューと共演してきた公私にわたる近しい間柄で、今回の裁判でも自らドパルデュー擁護の証言をしたほど。その新作で彼の配役を決めていたため、今回の裁判の結果により変更を余儀なくされることになるだろう。そもそも、今後彼の出演する作品を観たがる客がどれだけいるのか、という疑問もある。たとえば『シラノ・ド・ベルジュラック』(1990)のような名作にしても、これまでと同じような視点で観ることができなくなるのは、なんとも虚しい。
 6月の公開作のなかで話題なのは、カンヌ国際映画祭で披露されたセドリック・クラピッシュのLa Venue de l’avenir(未来からの到来)だ。現代とベルエポック初期の2つの時代を繋ぐ物語。遺産相続により、親戚一族が先祖の持ち物であったノルマンディの空き家を相続することになり、いとこ4人が備品チェックのために訪れる。彼らはそこでアデルという名の、おそらくは家主であった若い娘の肖像と彼女の残したレターを発見。そこから自分たちの先祖のアバンチュールを思い描く。すると映画は1895年のアデルの時代に遡り、彼女が自分を置いてパリに去った母親を探す旅路に切り替わる。
 19世紀は若者たちによる初々しい躍動感に満ち、現代は大人たちが先祖の青春時代を想像することで心の若々しさを取り戻す。実在のキャラクターを登場させつつ設定は大胆にフィクションを混ぜているものの、ポジティブな世界観とおおらかな人間愛は、いかにもこの監督らしい。

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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