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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

フランスの映画館に以前の活気は戻るのか

 フランスの映画館に閑古鳥が鳴いている。毎年夏のバカンス時期は映画館にとって辛い時期であるのに変わりはないが、コロナウィルスの感染率が下火になり、マスク義務がなくなった現在も、街の活気に比べ映画館には人出が戻らないのだ。CNC(国立映画・映像センター)の統計によれば、今年1月から4月までの興行成績の統計は、2019年の同時期に比べ、34.2パーセント下回ったという。4月以降も、人々の映画館離れの傾向は続き、そのまま夏に突入してしまった状態である。

 作品によっては健闘しているものもあるものの、ほとんどハリウッド大作ばかりであるのが悲しい。と同時に、以前ならバカンスの定番映画として大衆に人気のあったシリーズ、たとえば「レ・ブロンゼ」やCamping(キャピング)のような作品がないことも、要因のひとつだろう。この時期公開されるフランス映画の多くは、家族向けの緩いコメディや、どたばたティーン映画で、質が伴わないともはや映画館に人を呼びこめない、ということが証明されてしまったようだ。また、スターが出ない若手監督のインディペンデントな作品も、こうした状況下で煽りを受けている。9月以降、状況が好転することを祈りたい。

 さて、今回ご紹介したいのは、これまで脚本家としてジャック・オディアール(『パリ13区』)やクレール・ドゥニ(Stars At Noon(真昼の星))と仕事をしてきたレア・ミシウスが、『アヴァ』に続く監督2作目として発表したLes Cinq Diables(5人の悪魔)。水泳のコーチをするジョアンヌの幼い娘ヴィッキーは、鋭い嗅覚と観察眼を持ち、クラスでは変わり者として仲間はずれにされている。彼女は母親に特別な執着を寄せ、母の匂いのついた私物を瓶に入れ収集している。だがあるとき、父親の長らく疎遠だった妹が現れ、平穏な日常に変化が生じる。


レア・ミシウス監督Les Cing Diablesのポスター

 題名から想像するほどのオカルト映画というわけではないものの、サスペンスと心理ドラマが混ざり合い、かつLGBTQ+の要素もあり、という一筋縄ではいかない内容で、ジョアンヌ役のアデル・エグザコプロスの強烈な持ち味と映画全体の引き込まれる雰囲気が、独自の魅力を奏でる。若手世代の注目監督のひとりとして、名前を覚えておいて損はない。

◇初出=『ふらんす』2022年10月号

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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